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(7)「女性関係を聞かれいやだった」 検事調べに不満漏らす

引き続き男性弁護人は、検察官の取り調べの様子を加藤智大(ともひろ)被告(27)に確認していく。取り調べを行った検察官は、加藤被告の女性関係に関心を持って聞いてきたという。

弁護人「なぜ女性関係について特に聞いてきたと思いますか」

加藤被告「予想ですが、捜査方針として、女性関係が動機と考えていたからではないかと思われます」

弁護人「女性関係が動機に関係あるんですか」

加藤被告「いいえ」

弁護人「調書の訂正や確認はしましたか」

加藤被告「当時はろくに確認せずに署名してしまいました」

弁護人「なぜですか」

加藤被告「事件に関係のない内容を根堀り葉堀り聞かれるのがいやでした。事件に関係ないのでどうでもいいと、適当に署名してしまいました」

弁護人の質問に答えながら、加藤被告は検察官の取り調べに対する不満を述べていく。特に、6月5日に事件を思いついたという点、事件当日の朝にスレッドを立てた覚えがないのに、記憶があるかのように書かれた点が訂正されなかったことが大きいようだ。スレッドについて、加藤被告は検察官に覚えていないと話したが、聞き入れられなかったという。

弁護人「ほかに検察官の調書の訂正に関して、印象に残っていることはありますか」

加藤被告「訂正しなくていいと言ったのに、訂正されたことがあります」

弁護人「どんな内容ですか」

加藤被告「何かの調書で、トラックドライバーになるのが将来の夢とあったのですが、検事さんとの会話の中で、トラックじゃなくてバスだと言ったところ、ぜひ訂正しようと言われました。そういうところはいいと言っても、『必要なところだから』と言われ、訂正されました」

弁護人「動機にかかわるようなところですか」

加藤被告「いいえ」

弁護人「どう思いましたか」

加藤被告「事件に関係する重要な部分は訂正してくれないのに、どうでもいいところは訂正するのはなぜ? そんなことを思いました」

弁護人は、取り調べの録音・録画について質問していった。当時、加藤被告は担当弁護人から、録音・録画がなされている最中に調書の訂正を求めるようアドバイスされたが、できなかったという。

弁護人「録音・録画されているときに訂正を求めましたか」

加藤被告「口では言えず、首をかしげることしかできませんでした」

弁護人「なぜ?」

加藤被告「話そうとがんばったのですが、目の前の検事に遠慮が出たりして、強くは言えませんでした」

ここで、取り調べの様子が録画されているとみられるDVDが裁判官や検察官、弁護人の席に設置されたモニターで再生されたが、音声が流れるだけで、法廷内の大型モニターには映し出されず、傍聴席からは見ることができない。裁判官や加藤被告は、手元のモニターをじっと見つめている。

法廷内には、取り調べの様子の音声だけが流れている。男性検察官が穏やかな口調で、「調書はあなたにも読み聞かせ、確認したりしていることに間違いはないですか」「違うと感じるところは訂正してくださいとか言いましたか」などと質問している。加藤被告は小さな声で「はい」と言ったりしているが、答えが聞き取れないところもある。法廷内の冷静で淡々とした口調とは別人のようだ。

弁護人「このときの様子を説明してください」

加藤被告「検事さんに『訂正したよね』と言われ、心の中ではしてもらっていないと思っているのに、『そうではない』と言えずに態度で示すことをしました」

弁護人「態度で示すとは首をかしげたということですか」

加藤被告「そうです」

弁護人は調書の訂正に関して質問を続ける。加藤被告は訂正してもらうよう話そうと思っていたが、自分の立場を考え、言えずじまいで終わってしまったという。弁護人は、弁護側の調書の作成の経緯などを尋ねていった。

弁護人「検察官などの調書では、犯行の動機として、掲示板に真剣に悩みを書き込んだのに無視したネットの人たちに復讐(ふくしゅう)しようとしたとありますが、正しいことなのですか」

加藤被告「いいえ」

弁護人「起訴された後に、警察や検察の調書を見てどう思いますか」

加藤被告「もうちょっときちんと訂正を強く求めて正しい調書を作るなり、署名するなりするべきだったと思います」

弁護人はここで質問を終わりにし、あと1時間ぐらいは時間が必要だと求めた。裁判官はその場で話し合い、村山浩昭裁判長は午前はここまでで終わりにすると告げた。

加藤被告は表情を変えることなく、いつものように傍聴席に一礼し、退廷した。

約1時間20分の休憩を挟み、午後は1時15分から引き続き弁護人の被告人質問が行われる。

⇒(8)「私の罪は万死に値します」 被害者への謝罪の手紙