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(10)被害者全員の近況を暗記? 事件の責任「すべて自分にある」

3日目に入った弁護人の被告人質問も佳境に入る。加藤智大(ともひろ)被告(27)は被害者一人ひとりに対し、謝罪の言葉を述べていく。

弁護人「(刺されてけがの)○○さん(法廷では実名)に対してはどのような気持ちですか」

加藤被告「生活に支障が出ているという話を聞きました。けがをさせたこと、迷惑をかけたことを申し訳なく思っています」

弁護人「Gさんに対してはどのような気持ちですか」

Gさんは加藤被告に刺され、腎臓を激しく損傷する重傷を負った。

加藤被告「一応元通りの生活を送っているというが、体についた傷は消えない。2つあるべきもの(臓器)が1つしかなく、元通りになることはありえない話。申し訳なく思っています」

弁護人は紙を見ながら被害者を1人1人確認するように質問を続ける。加藤被告は暗記しているのか、被害者の近況も踏まえながら謝罪の言葉を続ける。

弁護人「Hさんに対しては」

Hさんも刺され、重傷を負った被害者だ。

加藤被告「事件でけがをさせ、後遺症を与えてしまい、それまで当たり前のことができずもどかしい思いをしていると聞き、本当に申し訳ないと思っている」

続けて弁護人は刺されて死亡した松井満さん=当時(33)=への思いを聞く。加藤被告は5秒ほど押し黙った。

加藤被告「…将来は自分の店を持ちたいという夢があったのかなと想像しました。命を絶ったことは夢を絶ったこと。申し訳なく思っています」

「家族や松井さんの(将来の)ことを楽しみにしていた多くの方に申し訳なく思います」

弁護人「□□さん(法廷では実名)についてはどう思っていますか」

□□さんも刺され、腕にけがを負った。

加藤被告「大変申し訳なく思っています。感染症を心配され、けがで仕事を辞め、ご迷惑をおかけしました。(自分が送った)お手紙で却って怒りがわいたことは配慮が足りず、精神的な苦痛を与え、申し訳ありません」

弁護人は同じく刺されて死傷した被害者のIさん、Jさん、Kさんへの気持ちを尋ねる。加藤被告は『申し訳ない』と謝罪を繰り返した。

弁護人「けがをされた方はもちろん、命を奪った被害者にはどういう気持ちですか」

加藤被告「…私が何をしたところで、奪った命は元に戻ることはない。自分の罪の重さを今感じている。やはり、申し訳ないと言う以外にない」

村山浩昭裁判長は言葉を確かめるかのように、加藤被告をじっと見つめた。

弁護人「一部の被害者には法廷で話してくれた人もいましたね。事件前、あなたとは関係がなかった人ですね」

加藤被告「事件の加害者と被害者、ご遺族。そういった最悪の関係として、他人ではなくなった。私の中でも他人事ではなく、申し訳なく思います」

加藤被告は右手の指先で耳をかく。弁護人はさらに、被害者のほかにも同僚など関係者への気持ちを尋ねていく。加藤被告は勤務先のほかにも、ナイフを買った店やレンタカー店、秋葉原の街などを挙げ、『ご迷惑をかけたことをおわびしたいです』と謝罪した。

弁護人「(インターネットの)掲示板に書き込んでいた群馬の女性に対しての気持ちは?」

加藤被告「事件に関係ないのにご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

弁護人「彼女は法廷で今後も友達づきあいをしてもいいと言っていましたね。どう思いましたか」

加藤被告「それ自体はありがたい話。私が被害者の方の人間関係を壊しておきながら、私だけ友人関係を再開して楽しむわけにはいきませんので、遠慮したいと思います」

ここで村山裁判長が弁護人の話を遮り、残りの所要時間を尋ねる。弁護人は「あと5分くらい」と答えた。

弁護人は群馬県の女性の子供についても加藤被告に質問する。加藤被告は「今後、私のことの記憶が残って悪い影響がなければいいと思う」と表情を変えずに淡々と答えた。

弁護人「青森の同級生についてはどう思っていますか」

加藤被告「事件に関係ないのに迷惑をかけました。最も親しい友人という存在です。(自分が)掲示板にのめり込んだことで存在を小さく見ていたことを申し訳なく思います」

ここで弁護人は証言台に行き、加藤被告に自身が書き込んだ掲示板の書き込みのコピーを見せる。加藤被告はめがねを少し直し、証言台に目を落とす。法廷内の大型モニターに掲示板の書き込みが映し出された。弁護人は加藤被告の書き込みの一部を読み上げる。

弁護人「ほんの数人、こんなおれに長いことつきあってくれてたやつらがいる」

「全員一斉送信でメールをくれる。そのメンバーの中にまだ入っていることがうれしかった」

弁護人は書き込みが加藤被告のものか確認する。加藤被告は少し声をうわずらせ、『はい』と答える。

弁護人「今の書き込みは本心ですね」

加藤被告「本心です」

弁護人「同級生はあなたに会いたいと言っていました。これについてはどう思いますか」

加藤被告「やはり、私は被害者や遺族の人間関係を奪ってしまった。私だけ友人関係を楽しむことは許されないと思っています。遠慮したいと思います」

弁護人「最後になりますけれど、今回の事件の責任はどこにありますか」

加藤被告「すべて自分にあります」

弁護人「人生をどう振り返っていますか」

加藤被告「…もっと、自分のことをきちんとみて、このような事件を起こすことなく、正しい方向に進むべきだったと思います」

弁護人「あなたに対して下される刑事処分についてはどう思いますか」

加藤被告「それは、私がやったことに相応の刑が下されると思っています」

弁護人「今後の人生をどう過ごしますか」

加藤被告「できれば、私に残された時間は分からないけれど、被害者やご遺族に、与えられた時間で、少しでも償いをすべく考えていきたい、そう思います」

弁護人「終わります」

村山裁判長は加藤被告を証言台から弁護人席の前に戻るように指示した。加藤被告は無表情のまま、席についた。

裁判長「弁護人の被告人質問を終わります」

続けて、村山裁判長は証拠調べの再開を告げる。加藤被告と弁護人の接見状況に関するもののようだ。検察官が書面を読み上げる。弁護人は平成20年6月9日〜7月7日に23回、同年10月6〜10日に4回、加藤被告と接見しているという。

裁判長「ここで休廷にしたいと思います。再開は3時5分、検察官の被告人質問です」

加藤被告は背筋をまっすぐ伸ばし、傍聴席に向かって一礼をして退廷した。

⇒(11)「自分を見つめれば私のようにならない」 再発防止策示す