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(6)「見ているんだから思いだせ!」 取り調べで供述迫る検事

取り調べの状況についての質問が続く。加藤智大(ともひろ)被告(27)は証言台に座り、正面に向かって淡々と質問に答えていく。

弁護人「事件の最中の調書を作成する際に、あなたの心情はどう書かれていましたか」

加藤被告「最初は『ナイフを買って、トラックを借りて人をはねて人を刺した』という調書が作られました。プリントアウトした後に、刑事さんが取調室を出ていって戻ってくると、この調書を廃棄して、またパソコンに向かい、新しい調書をプリントアウトしました」

「『人を殺すためナイフを買い、人を殺すためトラックを借り』と、『殺すつもり』という言葉が付け加えられていました」

弁護人「どう思った?」

加藤被告「一連の流れが明らかにおかしかった。刑事さんに『おかしくないですか』と疑問をぶつけました。できあがった調書を持ち出して帰ってきたら訂正される流れになったから(おかしいと思った)」

弁護人「何をしたんだと思いました?」

加藤被告「上司に確認を求めているのでは、と思いました」

弁護人「『おかしい』と刑事さんに言いましたか」

加藤被告「はい」

弁護人「何と言われましたか?」

加藤被告「苦々しい感じで『捜査に方針というものがある』と教えてくれました」

弁護人「訂正は求めましたか」

加藤被告「求めましたが、『殺すつもりで』という言葉は、上司に言われたんでしょう。がんとして訂正に応じてくれませんでした」

加藤被告が指先であごをポリポリとかいた。弁護人は検察官の取り調べ状況についての質問に移る。事件当時のことを『覚えていない』とする加藤被告の法廷での供述の信憑(しんぴょう)性を高めたいようだ。

弁護人「××検事(法廷では実名)の取り調べで、事件最中の記憶は思いだせていましたか」

加藤被告「思いだせていませんでした」

弁護人「××検事に言われたことは」

加藤被告「『自分のやったことで見ているんだから覚えていないはずがない』と、相当イライラしている感じでした」

弁護人「『見ているんだから思いだせ!』と言われましたか」

加藤被告「『よく分からない』と言うたびに、そういう風に言われました。私としてももちろん、思いだそうと努力しました」

弁護人「思いだせましたか」

加藤被告「思いだすことは取り調べ中はできませんでした」

加藤被告は証言台に座った姿勢をほとんど崩さず、淡々と質問に答え続ける。

弁護人「その後の取り調べで、事件の動機について思いだせましたか」

加藤被告「思いだすことはできませんでした」

弁護人「言われたことはありましたか」

加藤被告「最初は『がんばって思いだそう』と言われましたが、次第に『何か言うように』と言われました」

弁護人「覚えていなかったんですね」

加藤被告「思いだそうと努力していました」

弁護人「動機についてはどう話しましたか」

加藤被告「『分からない』では無責任ですので、思いだした部分を検事さんにぶつけてみたり、また、検事さんが『こういうことではないのか』と推理して聞いてくることもありました」

続いて弁護人は、加藤被告がインターネットの掲示板に書き込みをした際の心情を聞かれた取り調べの状況についての質問を続ける。

弁護人「検事に掲示板の書き込みを見せられましたか」

加藤被告「掲示板の(すべての)ログ(書き込み記録)ではなく、私の書き込みを抽出したものだけを見せられました」

弁護人「他の人の書き込みや、荒らしをされた書き込みは?」

加藤被告「そうしたものは含まれていなかったです」

弁護人「(取り調べは)あなたの書き込み内容を検討するようなやりとりですか」

加藤被告「取り調べ中に(書き込みを)見せられて、回収される感じではありました」

弁護人「掲示板の管理人に荒らしに対処するようにメールを送ったデータについて確認はありましたか」

加藤被告「ありませんでした」

弁護人「6月5日の掲示板の書き込みした際の気持ちは、取り調べで思いだすことはできましたか」

加藤被告「思いだすことはできませんでした」

取り調べ中も『事件当時の記憶は思いだせない』と答えたという同じようなやりとりを繰り返す弁護人と加藤被告。村山浩昭裁判長が思わず口をとがらせ、渋い表情を見せた。

弁護人は掲示板の書き込みの心情を記した調書が作られた際の取り調べ状況について質問した。

加藤被告「私の書き込みを抽出されたものを見せられて、コメントを求められました。覚えていないのですが、こういうことだろうと記憶していたかのまま書かれました」

弁護人「(調書の)言葉遣いについてはどうでしたか」

加藤被告「『〜だと思います』と話すと、『です、だろう』と断定するように言われました。何度も言われました」

弁護人「断定するように文章表現を変えられた?」

加藤被告「私のお話ししたものが、『〜です』と断定口調にされました」

弁護人「訂正するように求めましたか」

加藤被告「はい、しました」

加藤被告はよどみなく答えていく。

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