(14)「包丁でもよかったが、なぜナイフか分からない…」 噴出する矛盾
男性検察官は、加藤智大(ともひろ)被告(27)がインターネットの出会い系サイトを使って女性と知り合おうとしていた経緯について話を進め、質問は加藤被告と掲示板とのかかわりへと移っていった。加藤被告がスレッドを乱立させていたことについて、検察官が詳細を確認していく。
検察官「スレッドの乱立はなぜ迷惑になるのですか」
加藤被告「迷惑をかけているつもりはなかった。分からないです」
検察官は、ネット上の「荒らし」、「なりすまし」についても聞いていった。
検察官「『ものまね』と『なりすまし』はどう違うんですか」
加藤被告「悪意があるのが『なりすまし』、ないのが『ものまね』だと思います」
検察官「荒らしは放置するのがネット上では基本だと、あなたは言いましたが、なぜですか」
加藤被告「放置すればなくなるからです」
検察官「過剰反応するとどうなるのですか」
加藤被告「さらにおもしろがってひどくなります」
検察官「あなたのしたアピールは、荒らしに過剰反応したことになるのではないですか」
加藤被告「…。いま思えばそうです」
検察官「いま思えばと言いますが、当時だって分かったのではないですか」
加藤被告「当時はわけの分からない状況でした」
検察官は、加藤被告が平成20年5月31日、秋葉原にナイフを買いに行った話へと質問を変えた。
検察官「ナイフを買いに行ったとき、殺傷事件のイメージを持っていたのですか」
加藤被告「当時の行動や掲示板の書き込みからは、そうだと推測できます」
他人事のように答える加藤被告。続いて検察官は、加藤被告が勤務していた工場への派遣終了を通告された話について質問していった。
検察官「20年の5月の終わりに、派遣先の工場から解雇通告を受けましたね。あなたは残留になったらなったでがんばろうと思ったと言いましたが、本当にそうですか」
加藤被告「そう思いました」
検察官「簡単に言うとクビですよね」
加藤被告「そうですね」
検察官「ショックを受けたりしなかったのですか」
加藤被告「派遣というのはそんなものと受け入れていましたし、次の派遣先も紹介できると言われていたので、前向きにとらえていました」
検察官「(ネットの掲示板)『2ちゃんねる』で(派遣社員が使い捨てのパーツのようだと)相談して、『派遣も正社員も組織に属するとはそういうものだ』と答えがありましたね」
加藤被告「はい」
検察官「なんでそんな答えに納得したんですか。労働者の性質論を述べているだけですよね。簡単に受け入れられたんですか」
加藤被告「はい」
検察官は刃物の話へと質問を変えた。加藤被告は裁判長席側を向いたままの姿勢で答えていく。
検察官「20年5月31日の時点で、寮に刃物は置いていたんですか」
加藤被告「包丁ぐらいはあったかと思いますが…」
検察官「秋葉原に買いに行く前に、自分の身近に刃物がないか確認していないのですか」
加藤被告「していません」
検察官「手近な刃物で済ませようとは思わなかったのですか」
加藤被告「近所に包丁を売っているところもありますし別にそれでもよかったのかもしれませんが、なぜナイフかは分からないです」
検察官「殺傷能力の高い刃物が欲しかったのではないんですか」
加藤被告「殺傷能力の高さについては取り調べの中で知ったので、当時はそういう認識はなかったです」
検察官「そもそも事件を起こすと決めていないのに、なぜ刃物を探しに行くのですか」
加藤被告「起こさない前提で計画する、買うんだけど起こさずに済むというような楽観的な考えがありました」
検察官「5月31日の段階では、刃物を買うことでなりすましにアピールし、分かってもらえるのかどうか。そういう段階だったと言っていいのですか」
加藤被告「刃物を買うことがアピールだったので、そう言えると思います」
検察官「アピールするだけなら本当に刃物を買う必要はないですよね。掲示板にうそを書けばいいのではないですか」
検察官は、加藤被告の話の矛盾点をあぶり出そうとするかのように、質問をたたみかけていく。
加藤被告「ネットでは、本当に買ったなら写真を見せろとか返信されることがよくありますので」
検察官「実際にそういう書き込みはあったのですか」
加藤被告「なかったです」
検察官「ではなぜ買ったのですか」
加藤被告「実際に行動することで、警告の信用性を高めるということです」
検察官「さっきと同じような質問になりますけど、行動しなくても警告はできるのではないですか」
加藤被告は答えにつまり、しばらくの間、黙り込んだ。
加藤被告「すみません。分かりません」
検察官はここで質問を打ち切った。村山浩昭裁判長は閉廷を告げ、加藤被告が一礼して退廷した。
次回の公判は8月3日午前10時から開かれ、引き続き検察官の被告人質問が行われる予定だ。