(3)「ナイフ捨てろ」に「ん?」 逮捕の瞬間「気づいたら地面」
凶行に及び、秋葉原を恐怖のどん底に陥れた加藤智大(ともひろ)被告(27)。ナイフを振り回して逃げ回るが、いよいよ警察官に追いつめられる。警察官に制圧され、逮捕されるその瞬間を生々しく語った。
加藤被告「警察官が私の右回り90度に移動してきたので、私は壁を背にする形になり、それ以上動くことができなくなりました」
弁護人「そして?」
加藤被告「警察官が『撃つぞ』とホルスターから拳銃を出すしぐさをしました」
弁護人「そして?」
加藤被告「両手を頭の高さまで上げました」
弁護人「それで?」
矢継ぎ早に質問する男性弁護人。加藤被告は、事件時の状況について記憶にない部分もあると言いながらもよどみなく質問に答え続ける。
加藤被告「『ナイフを捨てろ』といわれたので、一瞬『ん?』と思いましたが、すぐに右手のナイフのことと思い、右手に持っていたナイフを捨てました」
弁護人「ナイフを捨てろといわれて『ん?』と思ったのはどうしてですか」
加藤被告「一瞬何を言われたか分からない感覚だったのですが、すぐに分かりました」
弁護人「ナイフを持っていたことを忘れていたのですか」
加藤被告「そんな感じです」
弁護人「そして?」
加藤被告「何がどうなったか分からないが、私は地面にいて、警察官に制圧されていました」
17人もの人を殺傷した加藤被告。ついに警察官に取り押さえられる。加藤被告は凄惨(せいさん)な状況となった当時の様子を淡々と語る。
弁護人「額を殴られてから警察官に刃物を振り回したりしましたか」
加藤被告「それはないです」
弁護人「警察と分かってから暴行はしましたか」
加藤被告「それはないです」
弁護人「右足に入れていたナイフはどうしましたか」
加藤被告「後で気づいたのですが、落としていました」
弁護人「ほかにナイフは持っていましたか」
加藤被告「内ポケットに持っていました」
弁護人「それはどうしましたか」
加藤被告「ナイフがあるという話をして警察官に押収されました」
弁護人「現場でですか」
加藤被告「はい」
弁護人「その後、パトカーに乗せられて逮捕されたんですね」
加藤被告「はい」
ここでいったん被告人質問が終わる。
裁判長「被告人は席に戻ってください」
加藤被告は証言台のいすからゆっくりと立ち上がり、両手で丁寧にいすを戻して弁護人の前にある席に戻った。
弁護人は、加藤被告に対する警察と検察官の取り調べ状況についての証拠を提出する。
弁護人は加藤被告の取り調べに違法性があったとの主張を展開するようだ。
弁護人は証拠の内容について読み上げる。
弁護人「事件当日、平成20年6月8日は警察官4人(法廷では実名)、6月10日は検察官(同)が11時半から20時59分まで、取り調べが休憩を3回入れて行われた」
弁護人は警察官と検察官の名前を挙げて違法な取り調べがあったと主張する内容を読み上げる。
弁護人「逮捕されてから鑑定留置の後、起訴されるまでに連日取り調べが行われた」
弁護人は取り調べの詳しい日時について、書面にまとめている。
弁護人は加藤被告の取り調べのすべてを録画録音することを求める申入書を検察側に送っていた。申入書の内容を読み上げる。
弁護人「東京地検の検察官に内容証明郵便で送った申入書について読み上げます。殺人未遂で逮捕された加藤智大被告の今後の取り調べにおいて、すべて、ビデオでの録画、テープでの録音を要求します。重刑が予想される事件で、被告は事件当時の記憶に障害があります」
弁護人は続けて、違法な取り調べがあったと主張する証拠を提出した。
弁護人「逮捕された万世橋署において、違法な取り調べがあった。(警察官の実名を挙げて)被告が記憶にないと言っているのにも関わらず、供述を強要した」
弁護人は証拠を読み上げ、裁判所側に提出した。
再び、被告人質問が始まる。
裁判長「弁護士の証拠提出が終わりましたので、被告は席に」
裁判長に促され、ゆっくりと被告人席を立ち上がり、証言台に座る加藤被告。何度もいすを引き直して、落ち着く。まっすぐに背筋を伸ばし、前を見据える。
男性弁護人の質問が再開される。
弁護人「警察官に制圧されてパトカーで警察署に連行され、逮捕された日は警察署ですぐに取り調べが始まったんですか」
加藤被告「はい」