(1)「性奴隷」は夢想の産物、動機に酌量の余地なし
「人間の顔をした悪魔」
事件は、星島貴徳被告が全く付き合いのなかった東城瑠理香さんを自分の思いのままになる「性奴隷」にしようと、自室に拉致したが、警察の捜査が始まると、捜査から逃れるため、東城さんを殺害して切り刻んで捨て、存在を完全に消し去ることで、第三者による連れ去りや失踪(しっそう)のように装い、事件を闇に葬り去ろうと計画し、躊躇(ちゅうちょ)なく冷酷に実行した事件です。
過去に類を見ない、極めて残忍で悪質な事件であることは明らかです。星島被告は東城さんを人格ある1人の人間として認めませんでした。性欲を満たすための「道具」としてしか扱いませんでした。警察の捜査から逃れ、消し去らなければならない邪魔な「物」としてしか扱いませんでした。被害者の人格や生命の尊厳を全く考えず、相手を思いやる気持ちをつゆほども持ちませんでした。「人を人とも思わない」残忍性は、被告が「人間の顔をした悪魔」であることを物語っています。矯正(きょうせい)の余地はありません。
東城さんは誰もが安全で安心と考える自宅から突然拉致され、23歳という若さで生涯を閉ざされました。東城さんの無念や切り刻まれた骨片や肉片しか戻ってこず、対面することさえできなかった遺族の悲しみと苦しみは察するに余りあります。
被告に厳しい刑を持って望むべきことは、誰の目にも明らかです。
殺害は必然
星島被告は若い女性を性の快楽のとりこにして、思いどおりになる「性奴隷」にしたいと思い続けていました。相手は若ければ誰でも良く、時間をかけて強姦すれば性奴隷でできると考えていました。星島被告にとって性奴隷にする女性の人格は邪魔でした。被告の言うことなら何でも聞く、人間に作り替えようとしました。被告には女性と対等に付き合い、人格を尊重したり、思いやる気持ちはみじんもありませんでした。
星島被告はマンションの自室に連れ込みやすいという理由だけで、2つ隣に住む女性を標的にしました。女性の顔も名前も性格も知りませんでした。性奴隷にするために襲ったのがたまたま東城さんでした。当初から被害者の人格、尊厳を踏みにじる考えしか持っていませんでした。人を人と思わない身勝手極まりない考えで、この点だけでも被告の犯行は許し難いものです。
弁護人は「殺人だけでなく、住居侵入やわいせつ略取についても計画性がない」と冒頭陳述で主張しました。しかし、これは誤りで、女性の部屋の電気メーターを診て帰宅時間を推定したり、ベランダから押し入るか、玄関から押し入るか検討し、帰宅した瞬間を玄関から押し入ると決めると、その方法を検討し、実際に待ち伏せして犯行に及んでいます。
女性を脅迫や暴力でねじ伏せられると考えていたため、脅迫するための凶器や縛り上げるタオルなどを準備していませんでしたが、そのことで、計画性がないとは言えません。被告は犯行日の夜、東城さん方前の通路に立つ警察官を見ました。東城さんが連れ去られたことを警察が知り、自分に捜査の手が伸びるのは時間の問題と考えました。
そのとき、東城さんは被告の部屋で3時間にわたり、全身を縛られ、口にはタオルを詰め込まれ、声も出せませんでした。抵抗するすべが全くなく、恐怖と不安で狂わんばかりになりながら生還を信じ、あきらめることなく、必死に生きようとしていました。
しかし、星島被告に被害者を思いやる気持ちは全くなく、東城さんに謝罪して解放することが浮かぶことはありませんでした。考えたことは、逮捕されれば、楽な仕事をして毎日のようにタクシーで通勤して「ステータス」を味わうという生活や体面を失うことだけでした。
生活や対面を失うことは「自分の人生が終わりになること」と考えました。東城さんの存在を消してしまえば、行方不明事件として闇に葬り、永久に摘発されない、完全犯罪を成し遂げることができると考えました。このとき、星島被告は狼狽(ろうばい)していたのでも、感情的になっていたのでもなく、東城さんの命と自分の生活や体面をてんびんにかけたのです。その結果、自分こそ重要との結論を冷静に導き、東城さんを殺すことを選んだのです。
被告は被害者を初めから自分の性欲を満たすための「道具」にすぎない存在として扱っていました。自分の生活や体面を守るために被害者が邪魔になれば「物」同様に消そうと考えました。
星島被告はこのように東城さんの人格、尊厳、生命を踏みにじり、自己中心的で身勝手極まりない考えに終始したのです。いかなる意味でも、動機に酌量の余地はありません。
東城さんの死亡を確認すると、死体の解体準備に入りました。そのとき、殺害を反省する気持ちも後悔する気持ちも、遺族の悲しみを考えることも全くありませんでした。東城さんの殺害は存在を消し去るための道半ばにすぎなかったのです。
それから長い時間をかけて被害者の死体を切り刻んでいきました。東城さんの「存在自体を消し去る」との決心が揺らぐことは一度もありませんでした。東城さんの存在を消すことを決してあきらめようとせず、やり遂げました。人としての思い、心情はかけらもありませんでした。
弁護人が指摘した通り、最初から殺害を意図していませんでしたが、殺害が偶発的だったとは到底言えません。むしろ東城さんを自室に拉致した時点で必然になっていました。拉致した時点で殺す意図がなくても有利に酌量すべきではありません。
星島被告はこの部屋の女性がひとり暮らしだと思っていたことから金曜日夜に連れ去れば、月曜日朝まで犯行が発覚せず、十分な時間をかけて「性奴隷」にできると考えました。こうして女性を平成20年4月18日金曜日夜に拉致する計画を立てました。
星島被告は月曜まで失踪はだれも分からないと妄信していたようです。しかし、社会生活を送る女性の失踪が3日も発覚しないことはありえず、いずれ発覚していたはずで、発覚と同時に東城さんを殺害していたであろうことは明らかだと考えます。
たとえ、金曜日夜から月曜日朝まで強姦し続けたとしても被害者が星島被告の思い通りに従う「性奴隷」になるはずがありません。東城さんの母や姉が証言したように自立した女性を目指して努力を続ける東城さんが被告の夢想の産物にすぎない「性奴隷」になどなるはすがなかったのです。星島被告がそれに気付いたとき、東城さんを解放して自由にしたでしょうか。被告の身勝手さに照らせば、到底考えられません。自らも供述する通り、警察の捜査の手から逃れ、自己の生活と体面を守るために東城さんを殺害し、遺体を解体して捨てたことは疑いようがありません。
苦しむ東城さんを見下ろす冷酷さ
「刃物で首を1回刺して殺す行為」は殺害方法として珍しいものではありませんが、自由に動ける人に刺すのとは比較にならないほど残忍で冷酷です。
姉の通報で警察官が駆け付けたとき、東城さんは1つ隔てた部屋で生きていました。しかし、身動きもできず、目隠しされた東城さんには抵抗するすべは何もなかったのです。
星島被告には東城さんの存在を消すことしか頭にありませんでした。恐怖と不安に陥り、心理的にも無抵抗な状態の東城さんを見下ろし、その状態を哀れむどころか、むしろ殺害に利用しようとしました。暴れられては殺しにくいと考え、落ち着いて、前触れなく左からそっと近づきました。そして、右手で口を強く押さえて頭を固定し、ためらうことなく、包丁で首を刺し、上半身の体重をかけ、一気に突き刺していったのです。
東城さんはうめき声を上げ、体をのけぞらせるように腰を浮かせましたが、何の抵抗もできませんでした。星島被告は腰を素早く押さえ付け、東城さんの命を早く絶とうと、大量に出血させるつもりで、包丁を抜き去りました。
星島被告は血が流れるのを間近で見下ろし、両手で口を塞ぎ、体を押さえながら東城さんを確実に殺したのです。
東城さんはうめき声を残して筆舌に尽くしがたい恐怖と激痛、苦しみの中、無念と絶望の底で殺されたのです。
東城さんが殺されたとき、東城さんの姉が壁のすぐ向こう側にいました。父がマンションに到着したころでした。母が長野から東京に向かっている間のことでした。警察官が東城さんを懸命に探している最中のことでした。殺害のわずか前に警察官がドアをノックした音は東城さんにも聞こえていたはずです。希望の一筋の光明が見えたとたん、東城さんの命は星島被告の卑劣な行為で永久に断ち切られました。
星島被告の殺害方法は、長い時間深い恐怖にさらした挙げ句、激烈な苦痛を与えた点でむごいというほかなく、残忍で冷酷です。