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(6)生々しい犯行場面の確認…「『市中引き回し』に等しかった」と弁護人

弁護人の最終弁論が続く。法廷内の大型モニターには「犯行態様(殺害行為) 被害者の目隠しをしたまま、頚部(けいぶ)を包丁で一突き」と表示されている。弁護人は、住居侵入に特段の道具を使っていないこと、わいせつ目的略取についても被害者宅にあった包丁やタオルを利用していることなどを説明し、殺害行為についてもこう述べた。

弁護人「特に注目すべきなのは、殺害行為には特段の執拗(しつよう)性、残虐性がないことです」

「被害者の頸部を包丁で一突きすることが残虐でないとは言いませんが…」と前置きした上で、弁護人は続けた。

弁護人「被告人は被害者を目隠しし、殺害を気づかせないようにしながら殺害しています。そこには、しばしば死刑問題で問題になるような、生きたまま灯油をかけて焼き殺すとか、執拗に何度も打撃を与えて殺害する、といった残虐性、執拗さは認めらないのです」

続いて、モニターには「結果の重大性 被害者は一人である」の文字が。

弁護人「『一人の生命は地球より重い』という格言を無視するつもりはありませんし、尊い命が失われたことについては弁護人としてもただご冥福(めいふく)をお祈りするだけですが、死刑基準での結果の重大性は、被害者の人数によっても判断されていることを無視するべきではありません」

東城さんの遺族にとっては到底、聞き入れ難い主張だろう。遺族らは床に視線を落としている。弁護人は、「あえてここで申し上げさせていただきます」として星島被告の検察官調書を引用し、生い立ちについても述べた。星島被告は幼いころに負った両足のやけどの痕に、大きなコンプレックスを持っていたことに触れる。

弁護人「私の足を見るほかの生徒の目は、同情や哀れみの目、気持ち悪いものを見るような目、さげすんだように見る目、ばかにするような目ばかりでした…こんな体で人並みに恋愛なんかできるわけない、と最初からあきらめていました…誰も好きにならないように注意していました…告白しても、やけどのことがあるからふられるに決まっている」

長年積み重ねられた、強烈な劣等感であふれている。

弁護人「被告人は過去34年間、常にこの傷痕と向き合って悩み続けてきたのです。もちろん、だからといって人を殺害してもよいなどというつもりはありませんが、犯行に至った要因の一つでもあり、このような生い立ちも目をむけるべきです」

弁護人は星島被告について「全く前科、前歴がありません」とした上で、反省の姿勢についても強調した。

弁護人「私はこれまで、数々の刑事事件にかかわってきましたが、本件被告人ほど真摯(しんし)に反省している犯罪者を見たことがありません。残念ながら、この反省は遺族に受け入れられていませんが、これは『坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い』といわれるように、むしろ当然のことでしょう」

ここで再び、弁護人は検察官調書を引用した。星島被告は殺害翌日の平成20年5月19日と20日に、マンション内で東城さんの姉と父親に相次いで会ったときのことをこう振り返っている。

弁護人「東城さんの家族は、東城さんが帰ってくることを願っているのだろうなと思いました…お姉さんに『妹さんを殺してしまってごめんなさい』と謝りたい気持ちになりました…私は思わず床に土下座して『すみません、僕が殺しました』と(父親に)言ってしまいそうになりました」

さらに、星島被告はいったん犯行を自白した後、事件について正直に供述していること、公判中も一貫して事実を認めていることなどを紹介した。

弁護人「被告人質問では検察官から極めて厳しい質問が続きましたが、そのすべての質問に被告人は偽ることなく、弁解することなく答えてきました。検察官の質問は誘導尋問もあり、重複的執拗な質問もありましたが、弁護人はできる限り異議を唱えずにきました、それは被告人が検察官の質問に真摯に対応している姿を裁判官にごらんいただきたかったからです」

星島被告は背中を丸めてうつむいたまま、表情を変えない。

弁護人「今回の裁判を続ける中で、果たして深く反省をしている被告人に、公開の法廷で、しかも遺族やマスコミ、一般傍聴人の前で、すべてを再度供述させることに疑問すら覚えていましたが、被告人はその質問すべてに答え続けたのです」

公判では、モニターに遺体の一部や犯行の再現写真などが映し出され、死体損壊の手順についても細かく確認が行われた。裁判員制度を意識した裁判の進め方とも言えるが、弁護人は疑問を投げかけた。

弁護人「これは被告人の反省の情を物語るものではありますが、その状況は遺族が求める『公開処刑』とまでは言わないまでも、『市中引き回し』に等しい扱いであったと言っても過言ではありません」

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