(2)恐怖感、痛み、絶望感、無念…「怒りの涙を禁じ得ない」涙声の検察官
男性検察官は両手を後ろで組み、はっきりとした口調で東城瑠理香さんを殺害後、遺体をバラバラにした星島貴徳被告の犯行を断罪していく。
「第4 死体損壊・死体遺棄の様態は壮絶かつ悪辣であること」。法廷の両壁面に設置された大型モニターにこう書かれた画面が映し出された。検察官は瑠理香さんの遺体を切り刻んだ星島被告の極悪非道な犯行を浮かび上がらせていく。
検察官「瑠理香さん殺害後、遺体を解体…。それぞれを自己に不利益なモノとして扱った。両腕、両足から肉をはぎ取り、まな板の上で刻みました。臓器を取り出し、まな板の上で切り刻みました…。解体後に残った骨は、悪臭を抑えるため、鍋でゆでました」
「人間としてではなく、モノとして解体したのです…。人間が同じ人間に対して到底できるものではありません。人を人とも思わない鬼畜の所業です。瑠理香さんの遺体をトイレに流し、少しずつ、通勤途中のゴミ捨て場にゴミとして捨てたのです。(瑠理香さん殺害から)2週間もたたぬうちに、瑠理香さんの存在を完全に消し去ったのです」
「5月28日、下水道管を下流にたどると、被害者の最初の遺体として肋骨(ろっこつ)の一部が見つかりました。わずか数センチメートルの長さの骨片でした。1カ月以上も汚水の水流に耐え、まるで探し出されるのを待っていたかのような骨片は、それ自体が忍耐強かった被害者の悔しさ、無念さを訴えかけてくるかのようです…。遺族の胸には激しい怒りと悲しみ、喪失感と無力感がいつ果てるともなく去来するに違いありません」
「本件のように、殺人の犯人が、被害者を殺害する前から、その死体を解体し、遺棄して被害者の存在を消すことによって完全犯罪を計画し、これを実行した事件においては、事件全体として評価し、死体損壊・遺棄行為を殺人事件の情状としても十分に考慮すべきです」
検察官は、昭和54年に北九州市小倉北区の病院長が男2人に殺害され、遺体をバラバラにされた上、現金が奪われた事件の説明を始めた。被害者が1人の場合、極刑を免れるケースが多いが、この事件は被害者1人に対し、死刑が宣告されたケースだ。
検察官「殺害後、計画通りに消され(殺され)、遺体を解体して捨てれば、事件が闇に葬り去られる可能性もあり非常に悪質です。解体して投棄し、瑠理香さんの存在を消す。しかも、他に類が見られないほど、細かく刻みました。非情です!」
今度は大型モニターに「第5 本件犯行の結果が重大であること」という文字が映し出された。
検察官「瑠理香さんは英語を熱心に勉強し、留学中に英語の教員資格を取得し、大学を首席で卒業し、留学費も奨学金やアルバイトなどでまかなっていた。美術やファッション関係の仕事を目指し、知識を吸収していた…。わずか23歳で、この若さで1つしかない命を永久に奪われた」
「瑠理香さんは努力家で、目標に向かってがむしゃらに頑張る人でした。希望に満ちた女性でやりたいこともたくさんあったでしょう。結婚して男の子をもうけたいともいっていました…。瑠理香さんは旅の途中でした。その人生を被告人は根こそぎ奪ったのです!」
検察官は事件当日の4月18日夜の瑠理香さんの行動を振り返る。
検察官「(瑠理香さんは)午後7時半ごろ帰宅しました。瑠理香さんにとっていつもと変わりない平穏な生活の一コマでした…。カギをかけるわずかな時間があれば、いつものように楽しく過ごすことができたはずです…」
「いつもと違っていたのは、一つ置いて隣の918号室の玄関ドアに隠れて被害者を待ち伏せていた被告人が突然玄関内に押し入り、襲ってきたことです…」
検察官は、これまでの公判で明らかにしてきた瑠理香さん拉致から殺害、遺体の損壊までの一連の犯行を振り返った。説明の途中で絶句し、感極まったのか、涙声のように聞こえるシーンもあった。
「被害者の恐怖感、痛み、苦しみ、絶望感、そして無念に思いを致すとき、遺族でなくても、怒りの涙を禁じ得ません!」