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(4)やけど痕「動機になりえず」…死刑判決事件と比較した論理展開の検察官

検察官による論告の読み上げが続く。検察官は裁判長をまっすぐ見据えて、抑揚をつけて言葉を続ける。依然として、検察官自らが時折、涙声になる場面もあった。論告は、星島貴徳被告の矯正の可能性について指摘する部分に移った。

大型モニターには「被告人の犯罪性向が進んでおり、矯正の可能性がないこと」という文字が映し出される。星島被告はこれまでの公判と同様、背中を丸めて長椅子に座り、感情のない表情で床を見つめている。

検察官「本件は被告人の人を人とも思わぬ冷酷な人間性が露顕した事件です。被害者に襲いかかってからその存在を消し去るまで、決して場当たり的に行動していたのでありません。従前の日常生活では決して表に現さず、法廷でも見せることがなかった被告人の真の人間性が表れています」

凶器となった包丁などを事前に用意していなかったにもかかわらず、検察側は星島被告が冷静な計算の元で犯罪を実現したと主張する。検察官はここで涙声になり、鼻をすすった。

検察官「被告は徹頭徹尾、非人間的な所為を貫いたのです。一方で被害者の人格、尊厳、生命までも踏みにじりながら、他方で保身のための足場を刻んでいく被告人の冷たい内面には、戦慄(せんりつ)を覚えます!」

続いて検察官は星島被告の生い立ちと犯行の関連性を指摘する。星島被告は公判で、幼少期に足にやけどを負い負い目を持ったことが、今回の犯行の要因になったと主張していた。検察官はこの主張について「同情に値する」としながらも、事件の「動機」にはなりえないと訴える。

検察官「仕事が順調であったことから自己を特別視し、他人を見下し、女性を自己の性欲を充足する対象としてしか見ず、人格を無視し、痛みや苦しみを歯牙にもかけない自己中心的な性格をはぐくんだことは、やけどの痕にコンプレックスを感じていたこととは全く無関係です」

強い口調で検察官は、言葉を続ける。

検察官「被告人は罪を認めています。しかし自首したわけではありません! 口先の言葉とは裏腹に、何の反省もしていないのです!」

検察官は星島被告の反省の姿勢を「口先の言葉」と表現、「凶悪な犯罪性向があることを否定する理由にならない」と結論付けた。続いて検察官は、事件の社会的影響の大きさについて言及した。

検察官「1人暮らしの女性の受けた不安感は見過ごせません。模倣犯の発生が懸念され、次の同様の犯罪の種をまいたといえます。本件の量刑に当たっては、この種の犯罪の再発を防止するものにしなければなりません」

大型モニターには「他事例との比較」との文字が映し出された。その下には、過去に乱暴目的で女性を略取、殺害した3例の事件が示されている。いずれの事件でも、被告の死刑が確定している。検察側は星島被告の犯行との共通点を挙げていく。

検察官「これらはいずれも自己の性欲を満たすため、無差別に選んだ落ち度のない被害者に対し、わいせつ行為を行う目的で略取、又は誘拐して監禁した後、検挙を免れるために相手を殺害した事案です。それぞれ、当初から相手を殺害することを計画していた事案ではありません」

検察官「本件では、被害者を姦淫するには至りませんでした。しかし姦淫するに至らなかったのは、被告人が供述するように「できなかっただけ」にすぎず、刑種を選択する上で考慮すべき有意な差とは考えられません」

いずれも死刑判決の出た事件を挙げながら、事件としての「差」がないと主張する検察官。さらに検察官は、星島被告の犯行には、これらの3件の事件より悪質な部分があったという主張を展開していく。

検察官「被害者の自宅に侵入し、被害者を殴りつけ、緊縛するなどして反抗を抑圧して略取した点、みじんに至るまで著しく遺体を損壊し尽くした点、被害者の尊厳を愚弄(ぐろう)する様態でこれを遺棄した点、冷然と捜査機関や社会を欺いて時間を稼ぎ、徹底した罪証隠滅工作を行った点において、より悪質であるといえます!」

星島被告の反抗の「悪質な点」について、検察官が一気に読み上げた。星島被告はうなだれたまま検察官の言葉を聞いている。検察官はいよいよ求刑の言い渡しに入る。

⇒(5)「死刑を、死刑を求刑します」…人格踏みにじり、獣欲の標的とした被告