第3回公判(2008.5.8)
(13)最後に羽賀被告が放った一言は…
続いて弁護人は、確認書署名後の知人男性や居合わせたそれぞれの人物の行動の不自然さを指摘し始めた。
渡辺被告弁護人「羽賀被告が確認書の署名後、暴力団関係者Bに電話で礼を言ったとされるが、羽賀被告がそのようなことをする必要性はない」
さらに通話記録などによる客観的な立証を、何もしていない検察側の捜査の不備も指弾。その後暴力団関係者Bの供述を取り上げ、知人男性がAに恫喝され、確認書に署名させられたにもかかわらず署名直後も2人がそのまま同じテーブルに居続けていたことを指摘。さらに知人男性がその後、暴力団関係者Bと一緒にBの事務所を訪れたというのも不自然だと述べた。
渡辺被告弁護人「結局のところ、和解書の内容については事前に当事者間で決定しており、男性は納得して和解書に署名した。そうでなければ、男性が根拠のない金を暴力団関係者A、Bらに任意に支払うことはなかった。男性は何らの恐怖も感じていなかった」
勢いづく弁護人とは裏腹に、斜め前に座る羽賀被告はだらりと力なくうつむいたまま視線を前の床に落として身じろぎもしない。一方で渡辺被告は落ち着かない様子で、足をゆすりながら前に組んだ手をもぞもぞ動かしながら弁護人の話に何度も頷いた。
渡辺被告弁護人は、知人男性が羽賀被告に犯罪行為ともいえるような内容の(借金取り立ての)メールを執拗に送っていたことを取り上げ、知人男性の行動の悪質性を強調。被害者は純然たる被害者ではないとの構図を前面に打ち出そうとしている。
渡辺被告の弁護人は、検察官が恐喝の報酬だとした3000万円の支払いについては、羽賀被告の弁護人同様、貸付金だと否定した。
渡辺被告弁護人「渡辺被告自身も将来的に宝石ビジネスを考えていた。長い交友関係と、将来の事業の支えになるとの思惑から3000万円を貸し付けた。決して不自然な貸し借りではない。仮に事件の報酬ならば貸付金が嘘になるが、これについて捜査されていない。捜査をすれば、貸し付けが嘘かどうか判明したはずではないのか」
この後、弁護人は改めて「被告人は無罪だと主張します」と述べ、最終弁論を締めくくった。
裁判長「それでは被告人両名は立ってください」
裁判長に促され、羽賀被告が証言台の右側に、左隣に渡辺被告がそれぞれ起立した。
裁判長「これで審理を終わります。最後に裁判所に対して何か述べておきたいことがありますか? まずは羽賀被告から」
羽賀被告の最終意見陳述を聞こうと、傍聴席はいっそう静まりかえった。裁判長が言葉を発してから数秒間、沈黙の時間が流れ、羽賀被告は短く、こう述べた。
羽賀被告「…無罪と信じています」
渡辺被告「(弁護士の)先生に言っていただいた通り、無罪です」
午後5時2分、閉廷。羽賀被告は起立して裁判長に向かって深々と頭を下げ、法廷の出口へ。ドアを開けて渡辺被告を先に送り出し、自らは法廷に一礼した後、ドアの外へ消えた。