(7)「容疑者は体を震わせ誰かに頼る」捜査員証言
弁護側は供述の任意性への疑いと誘導尋問があったことをなんとか引き出そうと、引き続き秋田県警捜査1課の元捜査員の証人を追及する。
弁護人「(彩香ちゃんが川に落ちた昨年4月9日)『いつ彩香ちゃんと別れたか』という話は、どういう文脈で出たのか」
証人「(鈴香被告が)午後4時以降の行動について、あやふやなことをいうようになったので思いださせるように」
弁護人「『いつ別れた』『どこで別れた』と聞くのは、彩香ちゃん事件との関連を引き出すための誘導尋問ではないか」
証人「まったく違います」
証人は大声で答え、弁護側とのやりとりは過熱。裁判長が「質問と答えがかぶってますのでもう一度」と注意する。
弁護人「取り調べで手を握ったりすることはよくあることか」
証人「殺人、放火、強行犯の容疑者は体を震わせ誰かに頼る。手を握って自供した話はいくらでもある」
弁護人「取り調べ中に手を握ったりすることが任意性に問題あるとは」
証人は「考えない」と、再び大声で否定。そして、元捜査員としての誇りを示すように語った。「容疑者の心境は私と○○(実名、女性捜査員)しか分からない。(鈴香被告は)衰弱し、倒れそうで、顔も青白くかわいそうだった」
続いて、弁護側と証人で、供述調書を巡る手続きについてのやりとりが始まる。(昨年)7月6日付の調書の話。
弁護人「(鈴香被告が)署名の前に弁護士に相談したいと言ったが、あなたは説得して署名させてしまった」
証人「『先生に相談するのは構わないが、怖い思いをしたのだから、真意であれば署名しても良いのでは』と話した」
弁護人「どういう趣旨で『弁護士に相談したい』と言ったと思うのか」
証人「『弁護士に言うのは構わないが、本当のことならば』ということで…」
弁護人「弁護士と相談後に署名では問題があったのでは」
証人「ない。だから『相談してよい』と言った。無理強いはしていない」
同じような質問と答えが繰り返される。
弁護人「夕方に検察調べがあるから署名させておきたかったのでは」
証人「本人が納得して署名した」
やりとりは同日の調書の、彩香ちゃん転落時についての経緯に移る。
弁護人「(鈴香被告が)彩香ちゃんが体の一部にぶつかって落ちたと供述しているにもかかわらず、調書には書いていない」
証人「そう言ったが、書き漏らしてしまった」
弁護人「体に当たって落ちたなら、故意殺の可能性もあるのでは」
証人「そうですけど、取りこぼしてしまいました」
弁護側による、証人の取り調べや供述調書について不適切な手続きがあったことを示そうと、質問が続けられた。当の鈴香被告は、午後になっても時折まばたきをしながら中空の一点を見つめているだけだった。