(4)「いじけてごめんなさい」捜査員証言
鈴香被告は被告人質問で「取り調べで、腰の痛みを訴えたが休ませてくれなかった」と主張していたが、証人の県警捜査1課の元捜査員は真っ向から否定した。
証人「(昨年)7月23日午後、被告は午前中の調書を読んでいるとき、腰を押さえ、立ったり、座ったりするようになった。どうしたのか聞いたら、『腰が痛い。薬がほしい』と言った」
イスから離れ、床に座ったり、寝そべったりしていた鈴香被告。女性警察官が「逆に腰に悪い」と手をさしのべ、立たせようとしても鈴香被告は応じなかったという。
検察官「どう対応したのか?」
証人「監房で休もうといった。しかし、『この方が楽だ』と聞かなかった」
床の上で10分ほどゴネたという鈴香被告は、ようやく立ち上がったものの、腰の痛みを訴え続けた。証人らはキャスターつきのイスに鈴香被告を乗せ、監房に連れ戻した。
証人「(連れ戻す際に)午前中に取り調べをした刑事に『午前中にも腰が痛いと言った』といっていたが、刑事が『午前中には言っていなかったよ』と返答され、バツが悪そうな顔をしていた」
約1時間の休憩をはさんで再び取り調べへ。鈴香被告は誰かの手を借りることなく、自力で歩いて取調室に戻った。
証人「取り調べを受けられるか聞いたら、『大丈夫です』『頑張ります』と答えていた」
検察官「なぜ腰痛を訴えたと思う?」
証人「調書の中で彩香ちゃん殺害の場面があったので、逃げたいと思って腰痛を装ったのではないか。休憩で気持ちが落ち着き、『逃げられない』という考えになったのではないかと」
この日の調書の署名の段階では、「殺す」という表現に抵抗感を示していたが、最終的には「これで」と納得して署名したという。「休みたかったら署名しろ」と迫ったとする鈴香被告の主張も「それはまったくない」と一蹴(いっしゅう)した。
検察官「翌日以降の取り調べで鈴香被告に変化はあったのか?」
証人「あった。弁護士から『彩香ちゃんの事件に関して警察に話す必要はない。雑談にも応じるなといわれた』と」
検察官「実際に雑談にも応じなかったのか?」
証人「応じた」
検察官「(その内容は)『床に寝そべっていたことを見下して放置していたべ』と鈴香被告が言ったことか?」
証人「はい。(鈴香被告の言い分に対し)『それは違うでしょ。あなたが寝そべりたいと言ったからでしょ?』と」
検察官「鈴香被告は反論したか?」
証人「いえ。黙っていた」
検察官「黙秘の状態はいつまで続いたのか?」
証人「7月25日の夜の取り調べまで」
検察官「鈴香被告は話さなかったことについて何か言ったり謝ったりしたのか?」
証人「『いじけてごめんなさい』と」
そして話題は、鈴香被告が『豪憲君の遺体の写真をみたい』と言ったとされるやり取りに移った。
検察官「なぜそんなことを言ったのか?」
証人「鈴香被告は『母親から、豪憲君の遺体はアリに食われ、すごい状態だったと聞き、反省したいので』と」
検察官「鈴香被告は彩香ちゃんの遺体の写真も見たがったことはあるか?」
証人「あった」
検察官「どのような理由で?」
証人「『自分は彩香の母親だから、最後の写真を持っているのが当たり前だ』と」
検察官「あなたは豪憲君と彩香ちゃんの写真を見せたのか?」
証人「見せていない」
それでも、鈴香被告は食い下がった。
検察官「鈴香被告はあきらめたか?」
証人「いや。8月ぐらいまでちょくちょく言っていた」
裁判長が7月23日の調書での訂正方法を証人に尋ねた後、正午に検察側の証人尋問が終わった。
鈴香被告は傍聴席の母親の顔を無表情のまま、じっと見つめ、法廷をいったん後にした。