(4)母「殺すなら別れればいいのに」
三橋祐輔さんの母親への検察側の尋問が続く。母親は、嗚咽(おえつ)をこらえながら、か細い声で答える。
検察官「あなたはご主人と歌織被告の初公判を傍聴しましたが、あなたは、歌織被告とは上京した際に会ったことがあるだけですか? ご主人は歌織被告と会ったことは?」
証人「ありません」
検察官「旦那さんは法廷で初めて会った?」
証人「はい」
検察官「今回の事件は、母親の立場でどんな気持ちだった?」
検察官の質問に、母親は、絞り出すような声で語り始めた。
証人「息子が…、(息子の)名誉のために私が知っていることをしゃべって、少しでも…。亡くなった人の名誉のためにどうしても」
「一方的な報道で叩かれた。ご近所には中継車がずらりと並び、皆の見る目が変わった。今もほんの家の周りの2〜3軒でしか、会話することができない」
「息子の名誉回復のため…。私たちはあの子の分まで生きたい。何も、殺さなくても良かったのにと言いたい。殺すほどなら、別れるチャンスもあっただろうに」
怒りにまかせて語り続ける母親を見て、困惑した表情で裁判長が割って入った。
裁判長「(検察官を見て)今日は、証人尋問ですよ」
検察官「…分かっています。最後に刑罰についてですが」
証人「今回は、死刑はないと聞いているが、死刑とは言わないまでも…(聞き取れず)。そして自分のやったことの償いを」
証人尋問は弁護側に移った。
弁護人「あなたが上京したのは、歌織被告がDVに遭ってシェルターに入り『離婚する、しない』というやり取りをしていたときか?」
証人「はい」
弁護人「メールのやり取りをしていたか?」
証人「…」
証人である祐輔さんの母親は、口数も、声量もどんどん小さくなって行った。
弁護人「歌織被告のメールには、『(祐輔さんが)手を上げている』という内容はあった?」
証人「…(聞き取れず)」
弁護人「メールの内容はすごく丁寧で、夫婦生活をうまくやっていると思ったか?」
証人「…」
弁護人「シェルターで上京した際に、歌織被告が公正証書を作ったのは、知っているか?」
証人「…」
弁護人「公正証書に離婚した際の慰謝料の値段があったのは知っている?」
証人「はい」
弁護人「祐輔さんがカウンセリングに通っていたというのは記載されていた?」
証人「…(聞き取れず)」
弁護人「祐輔さんは、奨学金の返済がまだ残っていたようだが、消費者金融からも金を借りていたのは知っていたか?」
証人「…(聞き取れず)。少しあるのは知っていた」
弁護人「祐輔さんがいなくなったときに、歌織被告と電話した際に歌織被告から『マンションを買うつもりだったから、いなくなるわけはない』と聞いた?」
証人「マンションを買うという話は聞いていない」
弁護人「歌織被告のご両親とは話をしたか? 歌織被告が祐輔さんから猿ぐつわをされ、両手を縛られたりしたことがあったことは聞いたか?」
証人「…」
弁護人、証人とのやり取りは、かみ合わないまま続けられていった。