(1)「歌織はヒス」助けを求める電話が母に
午前10時2分、歌織被告が入廷。ピンク色のカーディガンに白いスウェット。ロングへアーを気にしながら、裁判官席に軽く会釈して被告人席に座った。傍聴席の最前列に座る祐輔さんの父親とは目を合わせない。
午前10時4分、河本雅也裁判長が開廷を告げる。この日から検察側が申請した証人の尋問が始まる。きょうの公判で予定されているのは5人。最初は祐輔さんの母親だ。
裁判長「それでは開廷します。まずは検察側が請求した(祐輔さんの)実母を証人として採用します」
証人のプライバシー保護のため、法廷と傍聴席の間に間仕切り板が設置される。約8割方が埋まった傍聴席は、これから始まる検察側と弁護側の攻防を待ちかまえるかのようにしんと静まりかえっている。目隠しされたカーテンの向こう側を通り、証人が入ってきた。
裁判長「大丈夫ですか」
証人「はい」
衝立で姿が隠された証人は、かすれた小さな声で宣誓。いよいよ証人尋問が始まった。歌織被告は、時折長い髪の毛を手で横に流しながら、じっと正面を見据えている。
検察官「あなたは三橋祐輔さんのお母さんですか?」
証人「はい」
検察側は結婚後に送られてきた写真を証人に示す。
検察官「いつごろ送られてきた?」
証人が鼻をすすり上げる音が法廷に広がる。泣いているようだ。質問の答えは傍聴席には届かなかった。検察側は質問を変える。
検察官「けんかの仲裁を求め、電話がかかってくることがあった?」
証人「あった」
検察官「祐輔さんは何と?」
証人「歌織はヒスをやっている。助けを求めるように、『どうすればいいかな』と…」
検察官「ヒスというのはヒステリーが出ているということか」
証人「そうです」
検察官「祐輔さんの後ろで歌織被告の声が聞こえる?」
証人「聞こえます」
検察官「どんな?」
証人「『だれに電話してんのよ』とか…」
やりとりはお金の貸し借りの話へ。検察側は証人に対し、銀行の利用明細表を見せている。
検察官「祐輔さんと歌織被告にお金を貸したことは?」
証人「ありました」
検察官「なぜ20万円も?」
証人「友人の結婚式とかあるんでと、電話があった」
検察官「だれから?」
証人「祐輔からです」