(9)「キスされたかも」と同僚に相談 被告の「横で寝よう」「頭をなでろ」に困り果て…
耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判第2回公判は、江尻さんが勤めていた耳かき店の同僚、○○さん(法廷では実名)に対する検察側の証人尋問が行われている。男性検察官が質問を続ける。
検察官「被告からメールで予約が来ることについてまりなさん(江尻さんの店での源氏名)は何か言っていましたか」
証人「『店長に申し訳ないし困っている。メールアドレスを教えなきゃよかった』と言っていました」
検察官「被告が8月後半から金曜日もコンスタントに来店するようになったいきさつを聞いていますか」
証人「吉川(林被告が名乗っていた偽名)が『金曜も来られるようになったから来るね』と言ったと聞きました」
検察官「その前は?」
証人「その前?」
検察官の質問の意図が伝わらなかったようだ。検察官は言葉を継いだ。
検察官「じゃあヒントを出しますか。『独りでごはんを食べるのはつまらないから』と被告は言っていましたか」
証人「言っていました。『どうせ金曜も独りだし、一緒にごはんを食べよう』と言っていました」
「まりなは『土日も来ているから無理しないでくださいね』と言っていましたが、吉川は『気にしないでいいから大丈夫だよ』と言っていました」
林被告のしつこい誘いに江尻さんは辟易(へきえき)していたようだ。
検察官「まりなさんは被告の金銭的負担を心配していましたか」
証人「吉川から『差し入れは何が食べたい?』と聞かれたときも、できるだけ安い物を頼むようにしていると言っていました」
検察官「被告はなんと返答しましたか」
証人「『僕は月50〜60万、70万円もらっているから大丈夫だよ』と言っていました」
検察官「被告は『まりなから60万くらい?』と聞かれて『それくらい』と答えたと言っていますが」
林被告の供述と証人の証言に食い違いがあるようだ。
弁護人からも「証人は混乱している」と意見が述べられ、検察官は再度同じ質問を繰り返した。証人は「私はまりなからそう聞きました」と答えた。
検察官「平成20年11月からまりなさんが新宿東口店でも働くようになった経緯を知っていますか」
証人「はい。まりなはもともと、『ヘルプに行きたいけれど秋葉原店のようにお客さんが入らない』と複数のお客さんに言っていました」
江尻さんは秋葉原の店舗と新宿の店舗を掛け持ちしていた。
「まりなからは吉川が『新宿店の深夜時間帯は全部僕が入るからヘルプに行きなよ』と言われたと聞きました」
林被告は江尻さんの勤務時間の大半を自分の予約で埋めようとしていたようだ。
検察官「被告が長時間予約を入れることについてまりなさんは、困っていましたか」
証人「困っていました。他のお客さんが入れなくなったので、まりなが吉川に『時間をずらして、減らして』と言っているのを隣のブースで聞いていました」
「吉川は『他の客がいなくても僕がその分入っていればいいでしょ』と言っていました」
江尻さんは食い下がる林被告にそれ以上強く出ることができなかったという。
林被告は目をつむったままうつむいて聞いている。
検察官「ほかにまりなさんが困っていたことはありますか」
証人「新宿東口店に行く前に吉川が『深夜も入るんだから横で(一緒に)寝よう』と言われたとまりなから聞きました」
「起きたときに吉川の顔が近くて、『もしかしたらキスされたかもしれない』と言っていました」
長時間江尻さんを独り占めにしようとしていた林被告の様子が浮かぶ。
証人「『頭をなでろ』『手を握ってくれ』と言われたとまりなから聞きました」
検察官「まりなさんはどう返事したか聞いていますか」
証人「聞いていません」
検察官が少し話題を変えた。
検察官「平成20年11月に新宿東口店のことで被告とまりなさんが討論になったことは知っていますか」
証人「はい。吉川から『新宿に行くのなら一緒に電車に乗っていこう』といわれたと聞きました」
江尻さんは「店で禁止されているし、店長にも怒られる」と返答した。すると林被告は激怒し、店長に「おまえがおれとまりなちゃんのことを邪魔しているんだろ!」と詰め寄ったという。
検察官「被告がまりなさんのことをどう思っていたと思いますか」
証人「まりなはお酒も弱いしたばこも吸わないし全然すれてなくて…」
「でも吉川は私と仲がいいことを知っていて『あの子と一緒にいるとすれちゃうよ。あんまり仲良くしない方がいいんじゃない』と言っていました」
林被告は江尻さんに清純なイメージを求めていたようだ。林被告の言葉を聞いたときのショックを思いだしたのか、○○さんは涙で声を詰まらせた。
その後も林被告は江尻さんを強引に食事に誘うなどする。江尻さんは断っていたという証人の発言に対し、検察官が質問を挟んだ。
検察官「被告は(食事に)誘ったらすぐ承諾したと言っていますが、話が違いますね」
証人「私は断っているふうに聞こえました」
ここでもまた林被告と証人の証言に食い違いがあったようだ。
検察官「まりなさんは被告と食事に行きたがっていましたか」
証人「行きたくない様子でした。深夜だからファミレスしかないと言ってあきらめさせようとしても、吉川は『それでも行こう、神田なら近いじゃん』と言っていました」
江尻さんの体調が悪かったときも林被告は誘い続け、江尻さんは「なんでわかってくれないの」と泣きながら訴えたという。
検察官「(昨年)4月5日に起こったことは聞いていますか」
証人「はい。吉川から『ぼくのことどう思ってるの? つきあってくれないならもう来ない』と言われたとまりなから聞きました」
「まりなは『そういう気持ちで来るならもう来ないでください』と答えたと聞きました」
○○さんは泣きながら消え入りそうな声で証言を続けた。