(5)弁当まで持ち込んで8時間も居座った被告 次第に行動は常軌を逸して…
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判は15分の休廷を挟んだ後、江尻さんが事件当時に勤務していた秋葉原の耳かき店店長、Xさん(法廷では実名)への証人尋問が再開された。
林被告はややうつむきながら、入廷。若園敦雄裁判長が再開を告げ、男性弁護人が立ち上がり、質問を始める。
弁護人「平成20年8月29日から、被告は土、日に加えて金曜日にも店に通うようになりました。(通う回数が)週3日に増えた経緯を美保さんから聞きましたか」
証人「聞いたことはありません。時間が増えたとは思っていました」
弁護人「美保さんが被告に『平日にも来てほしい。金曜日夜にも来てほしい』と言っていたことを聞いたことはありますか」
証人「その…吉川(林被告が店で名乗っていた偽名)だけでなく…、平日の方が客が入りやすいということを江尻さんに限らず、いろいろな人に言っていたことです」
証人のXさんは男性弁護人を見つめながら、丁寧な口調で答えていく。
弁護人「週3回通うようになり、土日には1日に7、8時間も指名していましたね?」
証人「はい」
弁護人「金曜日に来て、土日にも7、8時間も指名を入れることを異常だと感じませんでしたか」
証人「えーと、えー」
一瞬、返答につまる証人。右から3番目に座る女性裁判員はXさんの顔をじっと見つめる。
証人「そのころは吉川以外にも(長時間指名する人間が)複数いました。吉川はその中の1人だと思っていました」
弁護人「しかし、美保さんには被告以外にそんなに長時間指名していた人はいませんよね」
証人「そうですね」
弁護人「被告が美保さんに長時間指名していたことについて、店長としてどのように考えていましたか」
証人「長くいたいという気持ちからだと」
弁護人「被告がどういう人間か聞いたことはありますか」
証人「江尻さんからですか」
弁護人「はい」
証人「やはり、その…、3、4時間入っている人は吉川以外にも複数いて。吉川についてあまり聞いていませんでしたが、ほかの人は聞いたことはあります」
弁護人「(店にいる時間が)30分、60分なら耳かき、マッサージをしていたと理解できます。しかし7、8時間だと耳かきやマッサージだけとは考えられません。お店として接客上、どのようなサービスを前提としているのですか」
耳かき店では耳かきや、耳つぼマッサージなどのサービスが提供される。だが、性的なサービスはなく、客が女性店員に触ることは御法度(ごはっと)とされる。
証人「(客が)延長するわけですが、『もっと話をしたい』とか、それ以外にも『腰をもんでほしい』とか。そういうことで延長する人がいます」
弁護人「被告は土日、7、8時間の指名予約を最初に入れていました。延長とは違いますよね。長い時間を取っていたことに関心はありませんでしたか」
証人「関心がないことは、ないです。(短い)時間の中では話し足りないこともあるのかと…」
弁護人は林被告が耳かき店にのめり込み、ストーカー化したことについて店側にも責任があるということを指摘したいようだ。
弁護人「長時間の場合、接客嬢にどんなサービスをするように言っていたのですか」
証人「長くはいる人には…、一緒に話をしたり。こうしなさいと指示はしません」
弁護人「店長の席から(女性店員が接客する)ブースが見えるということでしたが、被告と美保さんは何をしていましたか」
証人「話をしたりとか…。吉川が持ち込んだ食べ物、弁当を食べたりとか」
弁護人「どんな話をしていましたか」
証人「内容はヒソヒソ声なので聞こえませんでした」
弁護人「なぜ被告が長時間予約を入れていたのか関心を持たなかったのですか」
証人「持たないことはないです」
弁護人「どうして(林被告が)入りたかったのですか」
証人には答えにくい質問を繰り返す弁護人。堂々巡りの展開に若園裁判長が「同じ質問ばかりです」と弁護人をたしなめ、別の質問を促す。
弁護人「美保さんは新宿の系列店でも働くようになりましたが、なぜか聞いていますか」
江尻さんは平成20年11月ごろから、新宿の系列店でも働くようになった。林被告は新宿の店にも行き、江尻さんを指名した。
証人「本人はちょっとでも多くお金を稼ぎたいと言っていました。稼いだお金で家を借りたいと頑張っていました。それで長く働きたいと…」
弁護人「平成20年11月28日、被告は『美保さんと一緒に新宿に移動したい』と言ったことがありましたね。20年7月15日にも美保さんを駅で待っていたことがあります。『大丈夫かな』と考えませんでしたか」
証人「吉川以外にも待ち伏せをして出禁(店への出入り禁止)になる人もいましたが、その中には謝ってくる人もいました。(林被告が)改心したのかなと思っていました」
弁護人「特に被告に問題はありませんでしたか」
証人「多少不安はありましたが、入店を認めていました」
林被告はその後、江尻さんに対して執拗(しつよう)に食事を誘うなど行動をエスカレートさせていくことになる。Xさんと弁護人のやり取りが続く中、林被告は自身の右斜め前の床を見つめて微動だにしなかった。