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(11)働いてからずっと貯金を続けた訳…「まとめて親にあげる」と同僚に話した被害者

耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた林貢二被告(42)の裁判員裁判は江尻さんが事件当時、勤務していた東京・秋葉原の耳かき店の同僚、○○さん(法廷では実名)に対する弁護側の証人尋問が続いている。

傍聴席と証言台の間には衝立が立てられ、○○さんの姿は見えないが、若い女性のゆったりとした話し声が廷内に響く。

弁護側席後列の男性弁護人から、○○さんに江尻さんの耳かき店での勤務の様子についての質問が続く。

弁護人「まりなさん(江尻さんの店での源氏名)の体が悪いことを知っていましたか」

証人「はい」

弁護人「ヘルニアですよね」

証人「はい」

弁護人「被告には店の売りであるひざ枕をしていないことは知っていましたか」

証人「はい。でも、一切していなかったわけではありません」

江尻さんは持病を患いながらもひざ枕でのサービスもこなし、店で林被告とゲームをしたり、食事をするなどしたりして接客していたという。しかし、頻繁に予約を入れる林被告には困っていたようだ。

弁護人「被告の予約で、まりなさんはほかの客を受けられずに困って、いつも被告に言っていたけど、押し切られていたのではないですか」

証人「はい」

弁護人「店長には相談しなかったのですか」

証人「言っていました」

弁護人「店長は(それを聞いて)何をしましたか」

証人「そこは店長からいう(べき)ところではないので(何もしていません)」

弁護人はここで、眼鏡を外して腕組みをし、間をおいてから、再度、江尻さんの当時の林被告への対応について質問した。

弁護人「まりなさんは、断ることができない性格ですか」

証人「苦手だったと思います。ただ、私が聞いている限りでは断っていたと思います」

江尻さんは新宿に新装オープンした耳かき店の系列店でも働き、掛け持ちをするようになったという。

若園敦雄裁判長は検察側に再尋問の必要性がないかと確認後、各裁判員に追加で質問があるかを尋ねると、右から1番目の男性裁判員が質問した。

裁判員「まりなさんとしては林さん、被告のことをよく思っていなかったのですか」

証人「はい。あまりよくというか、ちょっと面倒くさいと言っていました。ちょっと変わっていると感じていたようです」

裁判員からの質問はこの一つだけで終わった。

続いて、傍聴席から向かって裁判長の左隣に座る右陪席裁判官が林被告のような常連客の心理について、○○さんに尋ねた。

裁判官「毎回、指名予約を入れる人は何を期待していますか」

証人「人それぞれで違います。ただ、話をしに来るだけの人や耳かきをしに来る人、営業中に昼寝をしに来る人もいます」

裁判官「なかには恋愛感情を持つ客もいるのではありませんか」

証人「いたこともあります」

裁判官は、江尻さんが林被告についてどのような印象を持っていたかについても質問した。

裁判官「被告についてまりなさんは困った人と思っていたということですが、何を困っていたのですか」

証人「人の話を聞かない。いいことと悪いことを含めて言っても、いいことだけしか頭に残らない、周りの見えない困った感じの人と言っていました」

「よく分からないことがあるので質問します」と言って、追加の質問を始めた裁判長。江尻さんの稼ぎについて話が及ぶと、廷内の傍聴席からは、江尻さんの関係者とみられる男性が顔を覆って肩を振るわせ、泣き始めた。

裁判長「さっきの話ですが、(林被告にストーカー行為をされて)コンビニに逃げ込んで警察から被害届を出すように言われていたのは聞きましたか」

証人「聞いていました」

裁判長「まりなさんから(聞いたの)ですか」

証人「はい。結局、被害届は出さないと話していました」

間髪を入れずに、○○さんはこう続けた。

証人「理由は、おばあさんが心配するのと、お母さんが具合が悪いということで、そこで被害届を出したら、また具合が悪くなるかもと言っていました。おばあさんとお母さんに心配をかけたくないと言っていました」

母親と祖母のために被害届を出さなかったという江尻さんは、耳かき店で稼いだお金の使途についても、○○さんに打ち明けていた。

裁判長「まりなさんはヘルプ(秋葉原店との掛け持ち)にも出ていたと聞いていますが、がんばって働いたお金をどうしようと考えていたのですか」

証人「父親が肩のけがでしばらく仕事ができないので、金銭的に困っていて、お母さんから言われたわけではないけど、言われたときに(家に)入れられるように、いっぱい稼いでお母さんにあげたいと言っていました」

さらに、○○さんは涙声混じりに証言を続ける。

証人「働いてからずっと貯金して、ある日、『そんなに貯金してどうするの?』と聞いたら、まりなは『まとめて親にあげる』と言っていました」

証言の最中に鼻に手をやり、下を見つめる林被告。左から2番目の女性裁判員は目をつぶって、この証言に耳を傾けていた。

裁判長はこの後、林被告が耳かき店を出入り禁止になる直前に、江尻さんに好意を持っていることを気付いていたか尋ねた。○○さんは好意を寄せていると思っていたが、江尻さんは必ずしもそうではないと思っていたという。

裁判長はここで、「長時間ありがとうございました」と○○さんに告げ、約20分の休廷に入った。

⇒(12)「怖がることしないから、店へ行ってもいいか」 待ち伏せた被告を拒絶すると…