(4)被告は「自分の中では存在しないことになっている」…犯行で風評被害に悩まされた店長の心中は?
耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判第2回公判。江尻さんの勤務していた耳かき店店長、Xさん(法廷では実名)への証人尋問が続いている。
検察官「事件を受けて証人の今の気持ちを自由に述べてください」
Xさんは数秒黙り込むと、重い口を開いた。
証人「あの…ここ1年の中ではやはり…お店も運営しているし、いろいろ世間とかお客さんとかから『この店はこういうことがあったんだよね』と罵声を浴びせられました」
「勤めている女性スタッフもいろんな言われ方をして、その中で運営してきた1年でした」
店関係者やXさんはいわれのない中傷や風評被害に苦しんできたようだ。
証人「吉川(林被告の来店時の偽名)という男は自分の中では存在しないことになっているのに、存在していることがつらい。でも自分の心の中ではいないことになっているので…今は何とも思っていません」
淡々と語られるXさんの言葉を、林被告は身じろぎもせず聞いている。
引き続き弁護側の質問に移った。男性弁護人が質問に立った。
弁護人「××耳かき店(法廷では実名)では60分コースが4800円、30分の指名料は500円で、つまり60分なら全部で5800円になりますね。このうち接客嬢(店員)にはいくら支払われますか」
証人「報酬として4800円の中から2千円が女性スタッフに支払われます。指名料は百パーセント支払います」
弁護人「土日は料金が違いますね」
証人「はい、平日と土日は違って…」
弁護人は店の料金体系を細かく質問し続ける。
弁護人「店のシステムとして6時間予約したとしたら先払いですか」
証人「すべて前払いです」
弁護人「途中で帰った場合は」
証人「返金はしていません」
向かって右から2番目の女性裁判員はペンを片手にほおづえをついてやりとりを聞いている。
弁護人「美保さんの平成20年12月の30日分の報酬は65万4250円だったことは知っていますか」
証人「知っています」
江尻さんはテレビ番組で取り上げられるほどの売れっ子店員だった。
弁護人「指名予約は開店30分前に電話でする仕組みですか。接客嬢と客が直接連絡をとることはシステムの範囲内ですか」
証人「範囲内ですが、女性スタッフから『来るかも』という形で受けて、店としても改めて直接お客さんから予約を受けます」
弁護人「店の方から直接指名予約を断ることはできますか」
証人「はい」
弁護人は江尻さんが林被告を嫌がっていたことについて店の対応を聞きたいようだ。
弁護人「店では林被告を常連、上客としていましたか」
証人「そうですね」
弁護人「上客になると扱いはどう違うのですか」
証人「平等に行っているので扱いが変わることはありません」
次に弁護人の質問は林被告の来店状況に触れる。
弁護人「店は30分と60分コースだけですが、林被告は長時間、江尻さんを指名しています。どういう経緯で指名が増えたか聞いていますか」
証人「美保さんから聞いてはいないけれど、吉川から『江尻さんともっと長くいたいから』と聞きました」
林被告は次第に江尻さんへの思いを募らせ、月数十万円をつぎ込むほどのめり込んでいった。
弁護人「平成20年7月15日の江尻さんの誕生日、林被告が秋葉原駅で待っていました。その後1週間くらい店にこなくなりましたが、また通うようになりました。そのいきさつを聞いていますか」
証人「聞いていません」
林被告は江尻さんの誕生日に待ち伏せ行為をしていた。
弁護人「林被告が約1週間後の7月21日に再び来店したとき、指名予約の電話は入っていましたか」
証人「入っていました」
弁護人「美保さんに予約を取っていいかどうかの確認はしましたか」
証人「覚えていません。予約の電話が多くて1件1件確認できない状態でした」
当時店は相当繁盛していたようだ。
弁護人「指名予約の電話が入ったときは指名された接客嬢に確認をとりますか」
証人「とっている暇がないくらい客が多かったので…」
ここで若園敦雄裁判長が弁護人にまだ質問が続くかを尋ね、15分間の休廷を宣言した。