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第2回公判(2010.11.26)

 

(1)「自分を奮い立たせるためにリストカット」…授業についていけず追いつめられた被告

山本被告

 中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=を刺殺したとして殺人罪に問われた卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の裁判員裁判員第2回公判が26日午前、東京地裁で始まった。午後には被告人質問が行われる予定で、どのように犯行を思い立ち、計画・実行に移していったか、山本被告本人の口から語られることになる。

 24日に開かれた初公判の罪状認否で、山本被告は起訴内容について「間違っていると思うところは?」との今崎幸彦裁判長の質問に「いえ、なかったです」と認めた。検察、弁護側ともに「犯行当時、山本被告は妄想性障害にかかり、心神耗弱状態だった」という点で争いはなく、量刑をどう判断するかに争点は絞られている。

 検察側は冒頭陳述で「山本被告は妄想性障害の影響で、周囲に不審な出来事が起きていると思い込み、高窪さんを殺せばやむかもしれないと考えた」「高窪教授が中心の団体が自分に危害を加えると思い込んでいた」と指摘。「身勝手な動機に基づく犯行で、強い非難に値する」と述べた。

 これに対して弁護側は「高窪さんに監視され、いずれ殺されるという妄想に基づく犯行で、当時の被告にとって殺害はやむを得ない選択だった」と訴えている。

 法廷は東京地裁で最も大きい104号法廷。午前9時58分、向かって左手の扉から目を細め、うつむきがちに山本被告が入ってきた。前回と違ってグレーのトレーナーに黒いズボン姿。男性弁護人の隣に座り、弁護人から話しかけられると「えっ」と聞き返した後、軽くうなずいた。

 続いて男性3人、女性3人の裁判員も裁判官に伴われて入廷し、席に着いた。午前10時ちょうど、今崎裁判長が開廷を告げる。

裁判長「それでは開廷いたします」

「採用済みの証拠の取り調べから始めます。検察官どうぞ」

 今回はまず、検察側から山本被告の捜査段階の供述調書が読み上げられた後、午後に入ってから被告人質問が行われる。プロの裁判官でも判断に悩むとされる心神耗弱を、一般市民である裁判員はどう判断するのか。その上で最も重要なのが山本被告本人の証言だ。女性検察官が立ち上がった。

検察官「それでは朗読します」

 検察官は、逮捕当時、警察官が山本被告を取り調べた際の供述調書をはっきりした口調で読み上げ始めた。

検察官「出生地は神奈川県平塚市だと思います。前科前歴はありません。私には兄弟がおらず、独身です。交際している女性もいません」

 検察官は、中央大電気電子工学科に入学し、平成16年3月に卒業、埼玉県狭山市の食品加工会社に就職した後の経歴についての山本被告の供述調書を読み上げていく。

検察官「狭山市の会社の寮に住み、工場に出勤する生活を送りました。やりたい仕事ではなかったですが、内定はここしかなく、とりあえず就職しました」

 だが、山本被告は1カ月ほどで会社を辞め、その後は図書館やホームセンター、パソコン店のアルバイトやパートを転々とする。

検察官「『能力不足』と判断され、退職を促されました」

「仕事の能力が備わっていなかったと解雇されました」

 電子系の会社にも就職したこともあったが、いずれもすぐに職を追われた。山本被告の供述調書では、理由はいずれも会社側から「能力不足」と通告されたからだという。

検察官「親しい友人は思い付きません。資産はなく、預金は60万円ぐらいです。趣味はヒーリングミュージックを聴くことです。健康に特におかしいところはありません。血液型はAB型で、右利きです」

 山本被告は激しくまばたきを繰り返しながら、検察官の朗読を聞いている。女性検察官は次に、検事の取り調べによる供述調書の読み上げに移った。高窪教授の殺害に至った経緯についての調書だ。

 起訴状によると、山本被告は昨年1月14日、東京都文京区の中央大後楽園キャンパス1号館4階の男子トイレで、刈り込みばさみを片刃にして自作した刃物で、高窪さんの背中や胸を多数回突き刺して殺害したとされる。

検察官「高校当時の成績はまあまあで、推薦枠で11年4月に中央大に入学しました」

「1年生の後期には内容が難しく、授業についていけなくなりました。やりたかったことは、人間関係学でしたが、推薦枠で入ったため、転部はできないと言われました」

「大学を受け直すしかないけど、やめると、自分の高校の推薦枠が取り消され、先輩や後輩に迷惑をかけることになると思いましたが、人間関係学が勉強できる文教大学をこっそり受験しました」

 だが、「受験勉強も中途半端だった」ため、あっさり落ちてしまう。それからは「ここで死にもの狂いで勉強するしかない」と、日曜日に終日図書館にこもったりと猛勉強を始めたという。

検察官「でも逃げ出したいときもありました。電気は僕には無理なんだという気持ちになったとき、自分を奮い立たせるためにリストカットをしました」

 山本被告はたびたび自分の手首を切るリストカットに及んでいたことは、初公判でも明かされたが、その理由は「自分を奮い立たせるため」だったというのだ。

 傍聴席から向かって右から3番目に座る女性裁判員はじっと山本被告の方を見据えている。左端の男性裁判員は調書を読み上げる検察官と、読み上げ内容が個条書きに映し出された法廷内の大型モニターを交互に見ている。

 山本被告は1年間、留年した末、ようやく研究室に入れる単位に達し、高窪教授の研究室を選んだ。理由は「2、3年生のとき講義を受けて教え方が丁寧で、生徒に配慮する態度が安心できた」からだという。

検察官「しかし、高窪教授は『こいつどういう奴なんだろう』という目で見てきました。リストカットの跡があることを聞いているんだろう。それで、いかがわしい奴と判断してほしくありませんでした」

「面と向かっては言いにくく、事務課の人に『リストカットの跡があっても変な目で見ないでください』と伝えてもらいました」

 それから1週間後、高窪教授が「ナーバスですね」と話すのを耳にする。山本被告に向かって言ったのではなかったが、教授が山本被告の告げ口で大学側から責められたから当てこすりで言っているのだと感じたという。

検察官「『いじめじゃない』『ありえない』と電車内で話す人がいました。高窪教授は私をいじめていないという意味だと思いました。なんで突然、私の知らない人がウワサをするのかと思い、このときは、聞き間違いと思いました」

 別の教授が「なぜ、しゃべらない。異常だぞ」と別の学生に言っているのも自分のことだと思いはじめていったという。

検察官「母と旅行に行った後、誰にも話していないのに同期の学生が『山本さんが旅行に行ったとき…』と話していました。盗聴されているのじゃないかと思いました」

「あがってしまい、うまく研究発表できず、高窪教授に相談したことがありました。高窪教授からは『私も緊張する。ビクビクして講義しているんだ。このことは誰にも言わないで』と告げられました」

 調書の読み上げは、山本被告が殺意を募らせる核心部分に近づいていく。山本被告はうつむき、まばたきを繰り返している。

⇒(2)「やらなかったらやられる」「精神的方法で人生を壊そうと」…殺害決意の理由に法廷は重苦しく