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(6)遺体放置しスポーツクラブへ…「普通の生活に戻りたかった」

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判第4回公判は約1時間の休廷を挟んで審理が再開した。午前に引き続いて若い男性検察官が市橋被告本人への被告人質問を進めていく。

堀田真哉裁判長が入廷したのに続いて、市橋被告が法廷に入ると、傍聴席から向かって右側の検察官の席の後ろに座るリンゼイさんの両親に向かって深く頭を下げた。初公判以来、繰り返されてきた光景だが、リンゼイさんの父、ウィリアムさんと母、ジュリアさんは顔をそむけて市橋被告の顔を見ようとしなかった。

裁判長「それでは再開します」

検察官「リンゼイさんの手や足に粘着テープを使ったということですね?」

市橋被告「あると思います」

検察側の冒頭陳述によると、市橋被告がリンゼイさんに乱暴する際、電気コードなどを束ねる結束バンドと粘着テープを使って手足を縛ったとしている。

検察官「手に粘着テープを使ったのはいつ?」

市橋被告「…」

思いだそうとしているのか10秒間以上の沈黙が続いた。

市橋被告「いつなのかは分かりません」

検察官「何のために使ったの?」

市橋被告「リンゼイさんが逃げないようにするためです」

検察官「足に粘着テープを使ったのはいつ?」

市橋被告「リンゼイさんの手首、足首にはめた結束バンドの上にそれぞれ(粘着テープを)貼ったのか、手のバンドの上に貼ったか、足のバンドの上に貼ったか思いだせません」

「結束バンドの周りに(粘着テープを)貼っているのは覚えていますが、それがいつなのか、どの個所なのか分かりません」

検察官は矢継ぎ早に質問する。

検察官「リンゼイさんの頭髪を切ったのはなぜですか」

市橋被告「髪を切った行為自体覚えていないのです。ただ、私とリンゼイさんしかいませんでした。髪を切ったのは私です」

ジュリアさんは目を押さえた。

検察官「警察が訪ねてきたとき、スポーツクラブに出かけようとしていましたね?」

市橋被告「そうだと思います」

検察官「なぜ、リンゼイさんを土に埋めたあと、スポーツクラブに行こうとしたのですか」

市橋被告「それは、いま考えれば…」

ここで市橋被告は「いま考えればということでもいいですか」と検察官に尋ねる。検察官は「はい」と応じた。

市橋被告「(同年3月)26日午後2時か3時の間に目が覚めてリンゼイさんの状態を確かめ、夢なら覚めればいいと、夢か現実か分からない状態になっていました」

「(スポーツクラブに出かけようとしたのは)普通の生活に戻りたかったのかもしれません。いまから考えると、このことぐらいしか答えられません」

右から2番目の裁判員はあごに手を当て納得がいかないような表情で市橋被告の証言に聞き入っている。

検察官「警察官が来たとき、あなたはなぜ逃げたのですか」

市橋被告「玄関から出ると警察の方がいました。警察官に囲まれ、『リンゼイさんのことを知っているか』と尋ねられると、私がリンゼイさんにしたことが頭に浮かんできました」

「そのときリンゼイさんが言った『私の人生は私のもの』ということが分かりました。急に怖くなりました。私は卑怯(ひきょう)にも逃げ出しました。申し訳ありませんでした」

リンゼイさんは市橋被告に拘束され、乱暴された状況の中、『子供をたくさん産みたい。私の人生は私のもの』と市橋被告に語っていた。このときの光景を思い出したのか、市橋被告の声のトーンが高まる。はあ、はあという息づかいも聞こえる。

この後、検察官が強姦の際に使った避妊具をどう捨てたのかの確認を行う。市橋被告は「ゴミ箱として使っていたバケツに捨てた」と説明した。

検察官はバケツから発見された証拠品の写真を法廷内に設置された大型モニターに映しながら「避妊具も結束バンドや粘着テープと一緒にレジ袋に入れて捨てたのでは」と質問するが、市橋被告は「違う。バンドなどは強姦の後も切っていない」と否定した。

ウィリアムさんは厳しい目付きで市橋被告の言葉を翻訳する女性通訳を見ている。

検察官はまた質問を変える。

検察官「調書では、リンゼイさんの首を絞める状況がどう記載されていますか」

市橋被告「リンゼイさんが動かなくなる直前の様子のことですか」

検察官「はい」

市橋被告「調書では『リンゼイさんの首を絞めました』となっています」

検察官「調書では、リンゼイさんが『I got it(アイ・ガット・イット=分かった) アハハ』と言った後、首を絞める力を強めたと書いていますね?」

市橋被告は「もう一度お願いします」と聞き直し、検察官が質問を繰り返す。

市橋被告「調書には書いています」

検察官「黙秘をやめた理由は、遺族が事件の経緯を知りたいと言っていると聞かされたからですね」

市橋被告は再び「もう一度お願いします」と聞き直したあと、「『遺族はどのように家族が亡くなったか知りたいものだ』と聞かされたことが黙秘をやめた理由の一つだ」と答えた。

ジュリアさんは口に手を当て険しい表情で市橋被告の言葉を聞いている。検察官が「調書では市橋被告の要請で削除した部分もあるはずだ」と尋ねると、市橋被告はまた、「もう一度お願いします」と口にし、検察官が語気を強めながら同じ質問を繰り返した。

市橋被告「あります」

検察官「調書に署名する前でも弁護人が重ねて接見に行っていますね?」

市橋被告「もう一度お願いします」

検察官は、調書の殺害の部分は違うと主張する市橋被告側に対して、調書は被告が言う通りに作成されたとの証言を引き出したいようだ。検察官が質問を重ねる。

市橋被告「取り調べ中も何度も(弁護人が)接見に来ましたが、『事件のことを話す』と言って調書を取り始めてからは(弁護人と)会っていません」

思うようにかみ合わないやり取りに、男性検察官の声のトーンが高まっていく。

⇒(7)「結構です」「もういいです」 遺族の代理人弁護士が登場