(9)母と検察側 かみ合わぬやりとり
検察側の再尋問が始まった。相変わらず、検察官の質問と母親の答えは時折かみ合わない。歌織被告も無表情で、変化は見られなかった。
検察官「平成16年5月に被告が実家に帰ってきたとき、父親と意見が合わないから仕方なく祐輔さんの所に戻ったというが、何かもめ事があったのか」
証人「祐輔さんと歌織が入籍したときから、主人は反対していた。私は入籍した以上、応援してやりたいと思って陰ながら応援してきた」
検察官「そのほかには何か」
証人「主人は体育会系で、女性とはこういうものだと押し付けるところがあった」
検察官「どういうことを押し付けたのか」
証人「一部始終は分からないが、入籍のことについて、いろいろ話していたと思う」
検察官「そのほかには」
証人「物の考え方もそうだと思う。歌織には歌織なりの考え方があった」
検察官「被告は離婚を望んで帰ってきたから、その点は意見が合っている。何が違うのか」
証人「物の考え方がかみ合わない」
検察官「具体的には」
証人「新潟に残る、東京に戻るという将来的な話でも食い違いはあった」
検察官「被告は何日ぐらい実家に戻っていたのか」
証人「5日間」
検察官「言い争いがあったのはいつ」
証人「そういう激しいものはないが、5日目の夜に些細なことから」
検察官「(実家に)戻ってきたときに、どうして暴力を振るわれたのか、歌織被告は言っていたか」
証人「言った」
検察官「何と」
証人「『すいません、すいません』と…」
検察官「私が聞いているのは、被告からどう聞いたのかということだ」
証人「髪の毛をわしづかみにして、床を引きずり回されて、逃げられないよう服を切り刻まれて…」
検察官「(暴力の)内容ではなく、経緯を聞いている」
証人「『いろいろなことで疑いを持たれた』と」
検察官「18年11月22日、あなたが被告に都内のホテルで会ったとき、年が明けた1月11日に離婚することを聞いている。その意思は堅かったか」
証人「はい」
検察官「1月11日に離婚する理由は、ボーナスと給料を折半にするからという提案が祐輔さんからあったからか」
証人「はい」
検察官「あなた方によると、祐輔さんはすぐに前言を覆したということだが」
証人「だから、いろいろな方に証人になってほしいということでした。『祐輔さんがいつまでも実行しないので、福岡の(祐輔さんの)両親のところに行って、離婚してほしいと説得してほしいと言うつもりだった』と」
検察官「(ボーナスなどの)折半のことを説得してほしいということではないか」
証人「それは違う。それを言っても、祐輔さんは『俺の物だ』『ビタ一文渡さない』と言ったと」
検察官「(説得は)お金のことではないのか」
証人「絶対違う。最後、歌織はお金はいらないと言っていた」
検察官「なぜ18年の1月11日が離婚する日だったのか」
証人「祐輔さんが言ったらしいが、『(1月)10日にボーナスが出るので、その日に折半して11日に新しいスタートを切る』と」
検察官「(離婚が)もっと早くてもよかったのでは」
証人「早くてもいいが、祐輔さんが言ったことに(歌織被告が)賭けていたと思う。祐輔さんから初めて提案してくれた言葉を履行してくれると思ったのでは。本人ではないから分からないが」
検察官「歌織被告が当初から離婚を決意していて、ボーナス、給料を折半するのは祐輔さんの提案だったということは検察官には話したのか」
証人「しました。『それはあり得ない』と言われた」
検察官「具体的には」
証人「『離婚したいのは祐輔さんで、そこを間違えないでくれ』と」
検察官「どこを受け入れてくれなかったのか」
証人「離婚したがっているのが、歌織ということ」
検察官「調書には、被告が離婚したがっていることが書いてある。読んでもらっただろう」
証人「記憶にありません」
まったく噛み合うことのないやり取りが続く。質問する検察官も、証言する歌織被告の母親も、苛立ちが募った様子だった。