(8)謝り続ける母、無表情で見る歌織被告
不当な取り調べがあったことを証明しようとする弁護側の質問は続く。
弁護人「『(歌織被告が)マンションを見て回っていたのは、買うためではなく暴力を避けるため』という話は、検察官に話したか?」
証人「話したが、『そんなことはない。歌織さんは虚言癖がある』と」
弁護人「調書には?」
証人「いえ。取り合ってもらえなかった」
弁護人「きつい声を出された取り調べはあった?」
証人「私が飲むための水を、検事が『持ってきて』と言ったら、事務官が自販機で買ってきた。そうしたら検事が『無料で飲める給水機があるのになぜ買ってくるんだ』と言った」
弁護人「どんな声?」
証人「聞いたことのないような怒鳴り声だった」
弁護人「検察官にどういう印象を持った?」
証人「あまりにひどいので『お支払いします』と言った」
弁護人「歌織被告が離婚したがっていたことについては、何と?」
証人「『お母さん、勘違いしないで下さい。祐輔さんが離婚しようとしていたんだ』と言われた」
弁護側は話を変え、事件後の生活状況を尋ねる。凄惨(せいさん)な事件は、歌織被告の両親の人生も一変させた。
弁護人「歌織被告が事件を起こして報道され、生活はどうなった?」
証人「前の(当時住んでいた)家に近づくことができない。心ある方…知人の家を転々として過ごしている」
弁護人「収入は?」
証人「主人の年金と、細々とアルバイトでつないでいる」
弁護人「遺族に手紙を書いているが、どういう気持ちか?」
証人「一刻も早く、手紙でもおわびを申し上げたい気持ちになった。本当にすみません」
傍聴席に座る祐輔さんの遺族関係者の1人は、黙ってゆっくりと首を振る。
弁護人「祐輔さんに対しては?」
証人「祐輔さんに対しては、どのようにつぐないを重ねても戻らない。命がある限り、つぐなわせていただきたいと思っている。申し訳ございません」
自分のためにおえつをもらす母親。それを見る歌織被告は無表情だ。
弁護人「歌織被告の苦しみを理解していた?」
証人「力不足だった。本当に2人に申し訳なく、身が裂かれる思いだ」
『2人』という表現で歌織被告への思いを示した証人だが、歌織被告は無表情のまま。口をへの字に結び、不機嫌なようにも見える。
弁護人「歌織被告はどんな刑を受けるか分からないが…」
証人「どんな重い刑でもしっかりと受け止め、命ある限りつぐなって、一生懸命…申し訳ございません」