(7)「論理の押しつけだ」検察側と弁護側激しい応酬
歌織被告の母親への弁護側の尋問が続く。終始うなだれたまま、消え入りそうな声で質問に答える母親を前に、歌織被告はばつが悪そうに、時折目を閉じるなどしていた。弁護側は、事件前日の平成18年12月11日、母親に電話した際の歌織被告の様子について詳しく聞き出そうとする。
弁護人「歌織被告は、祐輔さんのことについて何と言っていた?」
証人「(祐輔さんが交際していた)女性との電話のやりとりをテープで録ったと」
弁護人「テープに録ってどうするつもりだったのか?」
証人「(祐輔さんに)聞いてもらい、きちんと話をするのだと(言っていた)」
弁護人「歌織さんは、(話し合いをするために)祐輔さんにどうしてほしいと伝えたのか?」
証人「『必ず12時(午前0時)前に、遅くならないように帰ってほしい』と言った」
弁護人「(証人と歌織被告の)電話は、11日のいつごろしたのか?」
証人「夜という記憶」
歌織被告は、事件後の12月14日にも、母親に電話をかけている。この電話について、検察側は冒頭陳述で「祐輔さんが失踪(しっそう)したように装うために、うその電話をした」と指摘している。母親はこの電話で、娘の異変を感じ取っていたのだろうか。
弁護人「14日に歌織さんから『お金を振り込んでほしい』という電話があったというが、不思議に思わなかったのか?」
証人「なぜお金が必要なのか聞いた」
弁護人「歌織さんは何と?」
証人「『祐輔さんが10万円を持って家を出てしまい、(さらに)今日引き落としがある』と」
歌織被告は唇をかむようなしぐさをしながらも、淡々と母親を見つめている。一方、弁護側は検察側の取り調べ方法についても細かく質問していく。
弁護人「検察官の取り調べはどのくらい受けたか?」
証人「2日間」
弁護人「検察官から歌織さんの話は聞いた?」
証人「マンションと莫大(ばくだい)な慰謝料を手に入れようとしていると」
弁護人「それはあなたの認識と一緒だった?」
証人「いいえ!」
娘をかばうように、母親が声を荒らげた。
弁護人「他に、歌織さんについて聞いたことは?」
証人「…男女関係がすごくみだらで、毎晩ホテルのバーで男をあさっている。英語を習っているインド人と逃亡計画を図っている…」
口にするのも耐えられないように、早口で一気にまくしたてたが、最後は涙で言葉にならない。
弁護人「色々な人と関係があると言われたということ?」
証人「違います! 娘はお酒が飲めない。そんな子がバーに行くわけがないと言った」
弁護人「それに対して検察官は?」
証人「『お母さん、そんなことないですよ。歌織さんはかなりいける口で…』って」
弁護人「他には?」
証人「『お母さん、祐輔さんが離婚したいのに、歌織さんが絶対別れないといって、お金もマンションも手にいれようとした』とも…」
検察官から、一方的ともいえる言葉をかけられたと証言する母親。ここで、たまらず検察官が異議を唱えた。
検察官「裁判長! 弁護人の質問の意図が分からない」
弁護人「これは、検察官が一方的な理論を押しつけたということを立証するためだ」
検察官「押しつけたというのは、どこの部分を押しつけたというのか明らかにして…」
弁護人「いいえ、それは…」
検察官「ちょっと、待ってくださいよ!」
互いの言葉をさえぎるようにして繰り広げられた弁護側、検察側の応酬にも、歌織被告は表情を変えずに静かに聞き入っていた。