(11)手を合わせる母、目そらす遺族
歌織被告の母親が、なぜ祐輔さんの遺族に謝罪をしてこなかったのか、今後の補償をどう考えているのか、検察側の追及が続く。
検察官「命ある限り償っていきたいというが、そういう気持ちで間違いはないのか」
証人「刑がはっきりしたら、パートをして何とか働いていきたい。具体的なことは申し上げられないが何とかしたい」
検察官「具体的には考えていないということか」
証人「今、安易に言えることではない」
検察官「あなたが今どこに住んでいるのか、検察官にも伝えてくれていない。そんなことでは遺族も連絡の取りようがないのではないか」
証人「今はマスコミの対応もあり周辺に迷惑をかけてはいけないので、伝えることができない」
検察官「報道関係に教えろとは言っていない。被害者くらいには伝えられないのか」
証人「必ず伝える。今はできない」
ここで、弁護側の再尋問に移る。証人が被告からどのようなことを聞いていたのか、弁護側による確認が行われた。
弁護人「(平成18年)12月14日の電話では、暴力の内容をはっきり聞いていないのではないか」
証人「はい」
弁護人「祐輔さんから『金はオレのもの。家から出て行け』と言われていることを初めて聞いたのはいつか」
証人「18年の4月ごろ」
弁護人「何日のことか」
証人「何日かという記憶はない」
弁護人「その後、同じような内容を何回くらい聞いたのか」
証人「3回くらい」
最後に裁判官からの質問。裁判長からは、今回の事件を母としてどう思うのかという問いが投げかけられた。
右陪席裁判官「18年11月に、祐輔さんが『離婚したくない』と言っているということを聞いたのは誰からか」
証人「歌織(被告)から」
右陪席裁判官「祐輔さんによる暴力を直接見たことはあるのか」
証人「ありません」
裁判長「18年12月12日に被告は事件を起こした。19年の1月10日に被告がボーナスを気にする電話をかけてきているが、事件を知った今、そのことについてどう思うか」
証人「考えられない」
裁判長「なぜ考えられないのか」
証人「…」(むせび泣くばかりで言葉にならない)
裁判長「被告がどのような考えでこの犯行を行ったかということは、重要なことなのだが」
証人「最後まで離婚を決めてくれないので…」(また言葉にならなくなる)
裁判長「ボーナスの話とその話は両立するのか」
証人「…」(言葉に詰まる)
裁判長「黙して語らずということで記録する」
午後4時15分。この日の証人尋問はこれで終了した。証人は退廷の際、傍聴席の最前列にいる祐輔さんの遺族に手を合わせるものの、遺族は目をそらした。証人は泣きながら退廷。歌織被告は無表情のまま退廷した。次回公判(1月30日)には歌織被告の友人と、歌織被告が結婚生活について相談していた牧師が証人として出廷する。