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(12)「自分は特別」…生活や体面を失うこと恐れた

東城瑠理香さんを殺害し、証拠隠滅のため遺体を損壊した星島貴徳被告に対し、裁判官らの質問が続く。平出喜一裁判長は、拘置中にも自殺を試みたという星島被告の心理の追究を試みる。

裁判長「先週の尋問で、『完全自殺マニュアル』を読んでいたといいましたが、過去に自殺しようと思ったことはありますか」

星島被告「何度かあります。首つりが一番楽なことも知っています」

裁判長「そのたびに踏みとどまったのですか」

星島被告「する勇気がなかっただけです。まだ生きていれば何か楽しいことがあるだろうと…」

裁判長「自殺を考えたのはいつごろからですか。10年前とか…」

星島被告「…」

弁護人「『もっと前』と答えたと思います」

質問を遮るような勢いで答えたかと思えば、長い沈黙から消え入るような声で話すこともある星島被告。自殺については語気を強めるなど、不安定な精神状態をのぞかせている。

裁判長「精神的に病院で見てもらおうと思ったことはありますか」

星島被告「死にたい原因もよく分かっていますから見てもらう必要はありません」

裁判官らの質問が終わり、弁護人席前に置かれた長いすに異動した。星島被告は下を向いたまま、青白くなったほほをわずかに紅潮させていた。

これまで留保されていた供述調書について、被告人質問を補足するように検察官が朗読を始めた。公判の中で、星島被告が「『性奴隷』にすることに成功したら恋人になれる」としていたことについて、検察側はさらに詳しく言及する。

検察官「調教することにより女性を快感の虜(とりこ)にすることで、何でもいうことを聞くようになり、レイプされたことを警察に訴えることもないと思いました」

また、検察側は「性奴隷」にすることを失敗した場合についても「裸にするなりして写真を撮って脅せば、訴えることはない」と話していたことを明らかにした。検察側による供述調書の読み上げが続く。東城さんの自室である916号室に押し入り、東城さんの左こめかみを殴ったときの場面だ。

検察官「命中すると体が硬直するようになり、しゃがみ込んだ。しゃがみ込んだ東城さんをもう一度殴ろうとしたが、抵抗してこなかったのでやめました」

「(黒いバッグを奪ったのは)レイプして飼い慣らす女性がどんな素性か知りたかった。勤め先などを知っておくことは脅迫する際に必要になると思いました」

検察側の供述調書の読み上げは、殺害を決意した経緯にまで及ぶ。

検察官「自分が特別という感覚を失いたくなかった。身動きが取れない東城さんを見ながら、『逮捕されないためには存在を消さないといけない』と思った。人殺しは怖かったが、自分の生活や体面を失うことはそれ以上に怖かった」

検察官によって、犯行に至る自身の身勝手さを法廷でさらけ出される中でも、星島被告は背中を丸めたまま微動だにしない。検察側は、星島被告が遺体を損壊する際に、最初に首を切断した理由を供述調書から持ち出す。

検察官「首を一番先に取れば、浴室に死体全体が入るかなと思った。浴室に死体全体が入っていないと、警察が来たときに玄関ドアを開けられないと思った」

事件5日後の平成20年4月23日に会社を早退した理由や、天井裏に隠した東城さんの遺体の一部から漏れ出した血をタオルを投げ出して吸わせた理由については、星島被告は冷静さを見せていた。

検察官「23日はまったく仕事になりませんでした。このままでは職場の同僚に怪しまれると思い、思い切って早退するほうが怪しまれないと考えました」

「天井裏に血が垂れていると、今後警察官が部屋の中を徹底的に調べるはずで、これからいくら私が頑張って遺体の一部を捨てても意味がないと思いました」

この日の被告人質問では、星島被告は東城さんの遺体損壊後の4月27日に、セクシーな衣装の女性が街にあふれるゾンビをなぎ倒していくアクション映画『お姉チャンバラ』を見ていたことも明らかになった。検察側はそのときの星島被告の心情を、供述調書を朗読して明らかにする。

検察官「頭を切り替えて、映画は作り物だと思っていたので何とも思いませんでした。映画の内容は関係なく、そのとき私には東城さんの遺体を処分した部屋から離れることの方が大切でした」

傍聴席に座った親族とみられる女性は、被告人質問で述べられた以上に、冷酷かつ身勝手な感情を知らされ、肩を振るわせていた。検察側の供述調書の朗読はさらに続いた。

⇒(13)目指したのは「私のことだけを好きになる人格の“上書き”」