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最終弁論(3)「被告は『嫁だから』と耐えたのだ」

【第2】情状について

 1 自首

 (1)被告人は、第三者、すなわち、「被害者の家族のひとり」として、警察に出頭を求められ、これに応じて出頭し、捜査機関に自己が犯人であると発覚する前に、これを自供したから、自首が成立する。

 (2)この点に関し、検察官は、被告人の事情聴取にあたったFにおいて、嫌疑を抱いていたから、自発性がないと主張する。

 (3)しかし、第三者としての取り調べが開始された後、嫌疑が生じた場合は、その第三者は、被疑者に昇格し、その時点から、被疑者としての取り調べが開始するものであるから、刑訴法198条にもとづき、黙秘権の告知がなされる。

 (4)しかし、本件においては、被告人に対する第三者としての取り調べが行われてから、被告人が自供するまで、黙秘権告知が行われておらず、第三者としての任意の取り調べが継続していたことは明らかである。

 (5)さらに、Fの言う嫌疑とは、被告人の供述態度にもとづく主観的なものであり、被告人に対し、弁解の余地のない物証を示すなどして、弁解の余地なきに至らしめたのではない。むしろ「お母さんなら本当のことを言おう」などという容易に弁解可能な質問に対して、被告人は、自供したのであって、もともと夫の言葉により、本当のことを言おうと決めていた被告人を後押ししたにすぎない。「お母さんなら」という質問など、容易に回避できるのであって、Fの取り調べ過程における被告人の自供は、尋問に耐えかねて、弁解の余地なきにまでに追い込まれて自供やむなきに至らしめられた結果としての自発性なき自供とは到底いえない。

 (6)よって、自発性があることは明らかであり、自首が成立する。

 2 事件の背景

 (1)前述のとおり、本件は、本来被告人夫婦、長女、義母ともうまく行っている家庭が存在していたのであって、義母も孫である長女をかわいがっており、被告人にもやさしく接しており、まさに被告人が取り戻そうと考えた「幸せな生活」が存在していたところへ、交際相手と絶縁させられた不幸な境遇にある被害者が、入り込んできたことがそもそもの発端である。

 (2)被害者が、自身の不幸な境遇に対して、義母を含めた被告人ら家族の幸せな境遇に嫉妬(しっと)心を抱き、特に、長女を溺愛(できあい)する母親をみて、「被告人のせいで家族がばらばらになった」との負の感情を抱いたことは想像に難くない。

 (3)それは、被害者が被告人に「お母さんのどこに感謝しているのか言ってみろ」とか「お前のせいで、家族はバラバラだ」などと怒鳴っていることから、容易に推認できる。

 (4)このような負の感情から、被害者は、食事のこと、健康食品のこと、衣類の紛失のこと、さらに長女への暴行、被告人への暴言、職場での私物紛失騒動、さらに配置換えへの軽蔑、長女の生命身体に対する脅迫的発言、被告人をお前呼ばわりして、「早く出て行ってください」などのメールを送信して、追い出そうとすること、そして、被告人の表札のみはずして隠匿するなど数々の被告人に対する迫害、いじめを行った。

 (5)一方、被告人は、生来、穏やかで、口数が少なく、全く、暴力的なところはない性格であり、このような被害者によって迫害されるつらい日々に、泣き暮らしてきた。

 (6)そして、責任感が強く、問題を一身にため込んでしまう性格の被告人には、実家に戻ることもできず、また、夫に迷惑がかかると思って相談もできず、また、夫に迷惑がかかると思って相談もできず、「嫁だから耐えなければならない」という思いで、何とか耐えているという状態であった。

 (7)それが、平成19年7月16日、「お前の一番大切なものを奪ってやる」という被害者の発言から、長女に対する危害を恐れるようになり、結果、同年10月25日ごろには、被害者がいなくなれば、「以前の幸せな生活」が取り戻せると考えるに到ってしまったものである。

 (8)なお、被告人のいう「以前の幸せな生活」とは夫、長女、義母、自分の家族で生活していたころの幸せな生活であって、義母や夫を見捨てて、自分だけ実家に帰るということが選択肢となりえなかったのはもちろん、義母を捨てて、夫と長女の3人で、遠くへ引っ越すということすらも選択肢として考えられなかった。

⇒最終弁論(4)義母は供述調書で「恨んでいても絵里子は喜ばない」