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論告要旨(1)「心神喪失、自首成立」をいずれも否定

第1 事実関係

 本件公訴事実は、当公判定で取り調べ済みの関係各証拠により、その証明は十分である。弁護人は公訴事実自体について争いがない旨述べた上、(1)被告人は、犯行当時、精神病性の症状を伴ううつ病などの精神の疾患により、心神喪失又は心神耗弱の状態にあった旨、(2)被告人には自首が成立する旨それぞれ主張するので、以下、これらの点を検討する。

1 被告人には完全責任能力が認められること

 取り調べ済みの関係証拠から(1)被告人が、捜査および公判を通じて供述する、本件被害者への憎しみなどの感情を増殖させていった心境については、被告人の立場や感情などからすれば、理解可能なものといえること、(2)被告人が、事前に犯行用具を準備したり、事前および犯行後に、自己の犯行発覚を防ぐためアリバイに関する偽装工作を行うなどし、計画的に犯行を遂行していること、(3)被害者殺害を計画するようになってから、被告人の中で、それを実行しようという意思と、夫や娘などのことを考えて犯行を躊躇(ちゅうちょ)する気持ちの葛藤(かっとう)があったこと、(4)被告人の本件犯行時および犯行前後に関する記憶は極めてしっかりしており、取り調べ時および公判時における発言も極めて正常であること、(5)被告人には、本件犯行時までに精神科への通院歴が一切なく、本件時に被告人が精神の疾患を有していた旨の弁護人の主張は何ら客観的根拠に基づくものではないことなどの事情からすれば、本件犯行時に、被告人に完全責任能力が認められることは明らかであり、この点の弁護人の主張は失当である。

2 被告人には自首が成立しないこと

(1)取り調べ警察官の証言内容およびその信用性

 捜査当初、被告人の取り調べにあたった警察官Aは、公判廷で「平成19年11月8日、被害者の親族という参考人的立場で被告人を呼び出したが、被告人を取り調べるにあたり、上司からはそれまでの聞き込み捜査で被告人と被害者が不仲であったことが判明していて、被告人においても被害者殺害の動機を持ち得る立場にあるため、取り調べにあたってはその点に留意するよう言われた」「被告人の取り調べは、同日午後1時ごろに開始したが、その当初、被告人は、本職に対し、『犯人は、まだ分からないのですか』等と尋ねてきた」「取り調べの冒頭、被告人の身上関係を聞き、その後、アリバイ等を確認するため、犯行時ころの被告人の行動を確認していったが、被告人は『事件時ころは、茅野市内のガソリンスタンドやスーパーに行っていた』『事件時ころ、被害者の家には行っていない』『茅野市内のスーパーに行くことについては、主人にメールで伝えている』などと答えた」「しかし、その際の被告人の態度が落ち着きがなく、視線を反らしたり、生唾を飲むなどの行為を繰り返した。供述内容についても、不自然に変遷したり、矛盾するなどしたことから、同日午後2時ころの時点で、被告人が本件の犯人ではないかと疑うようになった」「その後、被告人に対し、供述の矛盾点等をついて『あなたは、今回の事件に関わりがあるのではないか』などと追及したが、それでも被告人は本件犯行を否認し、それまで話していたアリバイについて『本当なんです』等と答えた」「その後も被告人に対し真実を話すよう追及、説得を繰り返したが、被告人は自白せず、同日午後4時20分ころの時点で、ようやく泣きながら自供するに至った」「自供後、被告人は、当初否認していた理由について、『本当のことを話せば、自分が妻や母親でなくなってしまうと思った』などと供述した」旨証言している。

 Aの供述は、極めて具体的かつ臨場感があり、内容が自然である上、黙秘権告知を失念したことについても正直に話すなど、その供述態度も極めて真しであって、その供述には高度の信用性が認められる。

(2)被告人の供述内容

 被告人は、公判廷において、19年11月8日に警察署に呼び出された際、内心では、本件を自供しようと考えていたことを供述しながら、取り調べ当初において、Aに対して、「犯人は、まだ分からないですか」などと尋ねたことや、Aから犯行時ころの自己の行動を聞かれ、「茅野市内のスーパーに行っていた」との虚偽供述をしたこと、さらに、Aから「本当のことを話してほしい」と告げられたことなど、取り調べ当初、アリバイを主張して犯行を否認したが、Aから追及されて自供するに至ったことを認めている。

(3)自首の成立の検討

 自首の要件である犯行の自発的申告については、捜査官側の嫌疑の程度や申告に至るまでの犯人の心境等の主観的事情を判断要素として、これらを総合して判断するものとされるところ、(1)被告人においては、自らの求めで、犯行を申告するために積極的に警察署に出頭したものではなく、被害者の親族として警察に呼び出されたことに応じて出頭したものであること、(2)Aにおいては、被告人の供述態度や供述の矛盾等などから、被告人を犯人と強く疑い、被告人を追及する内容の取り調べを行っていること、(3)被告人は、Aにアリバイを主張する等して自分が犯人でない旨縷々弁解した上、Aから供述の矛盾点等を追及され、取り調べ開始から3時間以上経過した時点で、ようやく自供するに至っていること等の事情からすれば、本件においては、被告人による犯行の自発的申告があったとは到底認められず、被告人に自首は成立しない。

 裁判例おいても、犯人が、警察官の職務質問に際し、当初自己の犯行を申告する意思がなく、縷々弁解した後に自供した事案において、自首の成立を否定している(東京地判平成2年5月15日)

 なおAにおいては、被告人を犯人と疑って取り調べを行うにあたり、当初黙秘権の告知をしていないが、黙秘権の告知を要しない職務質問において、弁解した末自供した者について自首が成立しないように、その段階で黙秘権を告知しなかったこと自体は、自首の要件である犯行の自発的申告の有無には何ら影響しない。

3 小括

 以上のとおり、被告人には完全責任能力が認められ、また、自首についても成立せず、弁護人の主張はいずれも失当である。

⇒論告要旨(2)逃げまどう義妹に執ように攻撃