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咲被告あらかじめ殺害後の「証拠隠滅計画ノート」

■第1 五味咲被告の身上経歴

 高校卒業後、長野市内の福祉専門学校に通い、介護福祉士の資格を取った。同校卒業後、長野市内の福祉施設で介護福祉士として働き、平成19年6月からは同県富士見町内でパート従業員として働いていた。

■第2 咲被告と被害者、五味絵里子さんとの関係

(1) 絵里子さんは咲被告の夫の妹で、咲被告と同い年である。

(2) 咲被告と長女は18年7月から富士見町内の実家で、絵里子さんの実母と同居を始め、同年12月下旬、絵里子さんも同居するようになった。

■第3 犯行に至る経緯

(1) 咲被告は絵里子さんとの同居後まもなく、絵里子さんから「私の衣服などがなくなった」と咲被告のせいにするような言動をされたことなどから、絵里子さんに反感を持つようになった。

 また、19年3月ごろ、咲被告が長女から目を離した際に、長女が泣き声を上げ、その腹部が赤くなっていたことから、咲被告は長女に確認することもなく、絵里子さんが長女をせっかんしたなどと邪推し、絵里子さんに憎しみの感情を抱くようになった。

 同年4月中旬から、咲被告と絵里子さんは同じ職場でも顔を合わせるようになったが、同月と翌5月、職場内で絵里子さんの私物が紛失する事件が起き、その際、咲被告は絵里子さんから咲被告が犯人であるかのような言動をされたため、絵里子さんへの憎しみの感情を強めた。

 義母は咲被告と絵里子さんの不仲を気にして、職場の事務局長に2人の職場を変えるように訴え、同年6月12日、咲被告は異動することになった。しかし、咲被告は「絵里子のせいで職場を変えさせられた」と受け取り、さらに絵里子さんを恨みようになった。

 咲被告と絵里子さんの不仲などから、同年7月16日、咲被告の家族は富士見町内のアパートに引っ越すことになったが、同日、咲被告と絵里子さんは口論し、咲被告は激高し、絵里子さんの顔面を拳で数回殴打した。

(2)咲被告は絵里子さんと別居した後も、一方的に絵里子さんへの憎しみの感情を募らせ、同年7月下旬、駐車場に止められていた絵里子さんの車に傷を付けた。

 また、咲被告は「絵里子の私物が紛失するのは絵里子の自作自演ではないか」などと疑い、いつかそれを暴いてやろうとも考えていた。

 咲被告は同年10月上旬、富士見町の実家に行った際、玄関の表札から咲被告の名前だけが外されていることに気づき、それについても絵里子さんがやったものと疑い、絵里子さんに対する憎しみをさらに強めた。

(3)咲被告は同月下旬、同居していた際に絵里子さんから言われた言葉などを思い出し、「自分が苦しい思いをするのは絵里子のせいで、絵里子が死んでいなくなれば以前の幸せな生活を取り戻せる」などと、絵里子さんの殺害を考えるようになった。

 そこで、咲被告は同月25日、自宅近くのホームセンターに行き、絵里子さんを殺害するための凶器などとして、金づちや軍手などを購入。金づちだけで絵里子さんを殺せなかった場合は絞殺しようと考え、職場にあった紙ひもを編んで作ったひもを、金づちと合わせて自分の車のトランクに隠していた。

 また、咲被告はそのころ、絵里子さん殺害の計画を立てた際、自分がその犯人と疑われないようにするため、絵里子さん殺害後の証拠隠滅計画をノートにメモ書きするなどした。

(4)咲被告は同年11月7日、仕事が休みであったことから、「絵里子の私物紛失が自作自演であると暴いてやろう」などと考え、同日朝、富士見町の実家に赴き、合鍵を使って家の中に侵入し、室内を物色。絵里子さんが使用していたタンスの引き出し内から咲被告の表札を見つけた。

 そのことから、咲被告は自分の表札を外したのは絵里子さんであり、それならばこれまでの絵里子さんの私物紛失もすべて自作自演に違いないと思いこみ、絵里子さんに対する憎しみの感情を爆発させ、同日に絵里子さんを殺害しようと決意した。

 咲被告は絵里子さんが1人で帰宅する予定の夕方の時間帯に、絵里子さんを殺害することに決めた。

 また、自分が犯人と疑われないようにアリバイを作ることにし、犯行時ごろ、自宅から離れた場所にある茅野市内のスーパーにいたように装うことを企てた。

 そこで、咲被告はアリバイ作りのために、同日午前中、車で茅野市内のスーパーに行き、食料品を購入してアリバイ工作をした上、同日昼ごろに帰宅し、絵里子さんが帰宅してきそうな夕刻を待った。

(5)咲被告は同日午後4時ごろ、絵里子さんを殺害するため、自分の車に乗って自宅を出発した。ところが、夫から連絡を受けたため、普段と変わらぬ様子を装うため、夫と合流して富士見町内のスーパーで買い物をした。

 咲被告は買い物が終わった同日午後4時半ごろ、夫に「車のガソリンを入れに行く」などとうそをついて夫と別れ、絵里子さんを殺害するため、車で富士見町の実家に向かった。

(6)咲被告は富士見町の実家の駐車場に絵里子さんの車があるのを見て、絵里子さんが帰宅していることを確認した。

 しかし、近所の住民に顔を見られることを恐れて、実家から少し離れた駐車場に自分の車を止めると、トランクから金づちなどを入れた手提げバッグを取り出し、それを持って歩いて実家に向かった。

 咲被告は実家の玄関前に来ると、指紋が付かないようにするため、両手に軍手をはめ、無施錠の玄関ドアから実家に入った。

■第4 犯行状況

 咲被告は富士見町の実家に入ると、手提げバッグから金づちを取り出して準備。物音を聞いて玄関に近づいてくる絵里子さんを待ち、玄関に来たところで、やにわに金づちで絵里子さんの頭を殴打した。

 さらに、逃げる絵里子さんを追いかけ、立て続けに頭を多数回殴打。絵里子さんの衣服をつかんで引っ張り、廊下に倒した後も、頭をさらに金づちで殴打した。

 しかし、絵里子さんが死なないため、手提げバッグから取り出した紙ひもで首を絞めた。

 さらに、とどめを刺すため台所の引き出し内にあった包丁を取り出し、頚部(けいぶ)をねらって包丁を多数回突き刺し、失血により死亡させた。

■第5 犯行後の咲被告の行動

(1)犯行後、咲被告は絵里子さんの血が付いた着衣を脱いで、たんす内にあったスウェットに着替え、血が付いた着衣などを手提げバッグにしまった。

 そして、咲被告は玄関から逃げれば近所の住民らに顔を見られると考え、手提げバッグを持って台所南側のサッシ戸から屋外に逃走した。

(2)咲被告は駐車していた自分の車に戻ると、バックミラーで顔を確認。顔に付いていた返り血をウエットティッシュでふき取った上、咲被告の夫をアリバイの証人にすべく、「茅野市内のスーパーに寄って帰る」という虚偽内容のメールを送った。

 そして咲被告は、凶器や血が付いた着衣を処分するため、車で移動。金づちなどを同県原村にある用水路内に、着衣などを自宅近くの雑草地内にそれぞれ投棄した後、帰宅した。

 その際、咲被告はアリバイ作りのため、自分の車のトランク内に準備していた芽野市内のスーパーのポリ袋を取り出し、それを夫に見せて、「買い物をしてきた」と告げるなどした。

■第6 咲被告を逮捕した経緯

 咲被告は平成19年11月8日、絵里子さんの家族として警察署で取り調べを受けた際、警察官から、絵里子さんの死亡時ごろの行動を聞かれた。

 咲被告は「芽野市内のスーパーに行っていた」などと虚偽の供述をし、アリバイがあることを主張した。

 その供述内容が矛盾し不合理であったことから、警察官が被疑者として嫌疑を持ち、追及。咲被告はなおも事実を否認して弁解し、被疑者としての取り調べを受けて2時間以上経過した時点で、ようやく自供するに至った。

 咲被告が案内した場所から凶器などが発見され、翌9日に通常逮捕された。

■第7 その他情状

 絵里子さんの実母は、咲被告の厳罰を強く望んでいる。

⇒弁護側冒頭陳述 咲被告「ああ、全然死なない。お願い、早く死んでよ」…夫は離婚望まず