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(1)か細い声で起訴事実認める

長野県富士見町落合の同町社会福祉協議会臨時職員、五味絵里子さん=当時(24)=が自宅で“惨殺”された事件で、殺人の罪に問われた絵里子さんの兄の妻の五味咲被告(24)に対する初公判。長野地裁松本支部には、朝から雪がしんしんと降り続いている。

午後1時半、1号法廷に入廷した咲被告は、灰色のパーカーの上に紺色のベスト、水色のジャージー姿。下を向いてゆっくりと歩いている。髪の毛は黄色いヘアバンドを使って後ろで束ねているが、前髪が左右に垂れている。24歳と若いが、おどおどした印象の地味なイメージだ。ベストを脱いで着席すると、荒川英明裁判長が開廷を告げた。

裁判長「出廷した人が本人か、確認する手続きをします。真ん中に立ってください」

ゆっくりと歩いてくる咲被告。大きく息をしており、緊張しているのが傍聴席まで伝わる。

裁判長「まず名前を」

咲被告「五味咲です」

裁判長「できれば大きめの声で。五味咲と言ったね?」

咲被告「はい」

職業、住所などの確認が続いたが、か細い声はそのままだった。

裁判長「今からあなたについての殺人事件を審理します」

検察側の起訴状の朗読が始まった。起訴状は、咲被告が昨年11月7日午後4時35分ごろ、絵里子さん方に入り、持参した金づちで絵里子さんの頭を多数回殴打。さらに持参した紙ひもで首を絞め、絵里子さん方にあった包丁で首を多数回突き刺し、失血死させたとする内容だ。

裁判長「読まれた事実で違うところは?」

咲被告「ありません」

咲被告は起訴事実を認めた。だが、弁護側は注文をつけた。

弁護人「起訴事実自体に争いはないが、被告は犯行当時、妄想性統合失調症あるいは妄想性障害または鬱病(うつびょう)により行動を制御する能力を欠くか、著しく減退していた。心神喪失か耗弱(こうじゃく)の状態だった。また、任意の取り調べの段階で犯行を自供しており、自首が成立する」

犯行当時の精神状態と自首の成立。この2つが公判の中心的な争点となるようだ。検察側が反論する。

検察官「責任能力については、完全責任能力があったと考えている。また、自首は成立しない」

裁判長「なぜ?」

検察官「まず自首には自発性がない。それから、当時捜査官は(咲被告に)すでに嫌疑を抱いていたからだ」

⇒(2)「ガソリン入れる」と殺害に向かい、返り血は車内のミラーで見てティッシュでふいた