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 咲被告「ああ、全然死なない。お願い、早く死んでよ」…夫は離婚望まず

■第1 当事者

 1 咲被告は、平成16年7月、絵里子さんの兄である夫、裕紀さんと結婚し、同月、茅野市内のアパートに引越し、17年1月、長女を出産した。そして18年7月、富士見の家で、義母と同居を始めている。

 咲被告は、かねてより、裕紀から妹、絵里子さんについて、とんでもない人間であり、あまりかかわるなといわれていた。

 2 絵里子さんは咲被告の夫、裕紀さんの妹である。咲被告と同年生であるが、早生まれのため、咲被告より学年は1年上である。

 絵里子さんは富士見高校を卒業するや男と同棲を始め、母親から受け取っていた亡き父の生命保険金の一部の1000万円で車を頻繁に買い換えるなどして、1年足らずで使い、専門学校も数カ月で中退するなどし、さらに借金も背負っている状態となった。

 そのため、絵里子さんの母は18年2月に、絵里子さんを交際男性と別れさせた。

 その結果、絵里子さんは失意のうちに、咲被告らの居住している富士見の実家に戻ってきたのである。

■第2 絵里子さんの咲被告に対するいじめ

 1 絵里子さんは失意のうちに実家に戻ってくるや、かつて自分の生活していた2階の部屋が咲被告夫婦家族の部屋として使われており、自分の部屋がなくなっていることにショックを受けた。

 2 そのうえ自分より1学年下の咲被告が、子供ができて主婦を装い、夫(兄)ともうまくやり、幸せそうにしていることに嫉妬し、咲被告のことを邪魔だと思い、咲被告がいなくなればよいと考えるようになった。

 3 そのような心情から、絵里子さんは以下のようないじめを咲被告に繰り返した。初期のいじめは以下のとおりである。

 (1)スカートが無くなったことにして、咲被告が盗んだことにしようと考え、これを「あいつあたしのスカート盗みやがった」などと母親に虚偽の訴えをした。

 (2)健康食品がなくなったことにして、咲被告が盗んだことにしようと考え、「あいつ健康食品まで盗んだよ」などと言って、母に虚偽の訴えをした。

 (3)咲被告が作った料理を「あんたババくさいもの作るね」と文句をつけた。

 (4)咲被告の娘が、絵里子さんの吸っているタバコを誤って口に入れたことについて、「お前がちゃんと見てないからだろ、部屋に入ってきたこいつが悪い」などと言った。

 (5)咲被告の娘がうるさいと言って、娘を蹴るなどした。

 (6)その他、多くのいじめを日常的に受けていた。

 4 しかし咲被告は口では言い返せないので、いつも黙っていた。

■第3 職場トラブル

 1 絵里子さんは、咲被告が18年12月に職員募集に応じて申し込んで面接を受けて採用され4月から就職が決まっていた社協に、親のコネで2月から働き始めた。

 2 絵里子さんはここでも、自分には介護福祉士の資格がなく、咲被告には資格があることから、咲被告を職場から追い出そうと画策した。

 3 そのため、以下のような職場トラブルが発生した。

 4 まず同年4月、携帯電話がなくなったことを偽装して、咲被告に罪をなすりつけようとして、「なくなった」とわめき散らした。

 5 同年5月には財布がなくなったとして、突如、警察を呼んだ。

 6 突如警察を呼ぶという常軌を逸した行為は、社協上層部の逆鱗に触れ、絵里子さんは解雇される寸前であった。このころから、職場関係者は絵里子さんについて、おかしい人だと思い始めている。

 7 咲被告と絵里子さんの関係から、職場に混乱をきたしたため、上層部は絵里子さんを解雇にする方向で今後の対応を考えることになった。

 8 しかし結果としては、絵里子さんは親のコネもあり解雇にはならず、咲被告に介護福祉士の資格があるということで、咲被告が異動することになった。こうして、絵里子さんによる咲被告左遷の策略はみごと成功した。

 9 咲被告は、これは自分を排斥する絵里子さんの陰謀であると感じ、失意のうちに障害者施設へと異動することになった。

 10 なお、咲被告がその言い渡しを受けた際、絵里子さんはすれ違った咲被告に対し「いつ言われたの」「かわいそうだね」などとあざ笑った。

 11 このようなことから、5月に、母を交えて3者で話し合いの機会がもたれたが、「あたしのどこが気に入らないか言ってみろよ」などといい、咲被告が別に嫌いじゃないと言うと、「お母さん、こいつホントのこといわねえよ」などと言って、咲被告をやり込め、咲被告はやってないというのが精いっぱいだった。

■第4 咲被告の仕返し

 1 咲被告の仕返しとして、ひじきが「ばばくさい」といわれたため、3日連続でひじきにしたり、絵里子さんの車にひそかに傷をつけたりした。

 しかし、絵里子さんは車を傷つけられても何とも思わず、全く困っておらず、仕返しは失敗に終わった。

 2、 なお咲被告は8月に、さらに大き傷を絵里子さんの車につけたが、それでも絵里子さんは困った様子ではなかった。

 3 むしろ、この件で自分がすぐ犯人として疑われたため、咲被告は自分は家族じゃない、信用されていない、という被害者感情を強める結果になった。

■第5 絵里子さんと咲被告の大喧嘩(平成19年7月16日)

 1 咲被告は、絵里子さんによるこのようないじめを毎日のように受け、泣き暮らす日々を送っていたが、絵里子さんの存在自体が日々ストレスになっており、7月にはこれが原因で体に不調をきたし、気管支炎と頭痛で諏訪中央病院を受診した。これは心身症と考えられる。

 2 そして咲被告は夫とともに家を出て、アパート暮らしをすることになった。

 3 それが7月16日だった。

 4 その日は絵里子さんが咲被告追い出しに成功した日である。

 5 そのため絵里子さんは咲被告に対し、「早く出て行ってください」とメールを送信し、咲被告を家から出て行くように追い込みをかけた。

 6 咲被告は絵里子さんの職場に向かい、帰り際に絵里子さんに「どうしてそういうことするの」などと泣きながら訴えたが、逆に絵里子さんは「お前はなんで結婚式の日とか教えてくれねーんだよ。子供なんて自分で面倒みれねえんなら連れてくんなよ。お母さんに迷惑かけてるんじゃねえよ」などと、とうとうとまくし立てられ、結局、家に帰って母のいるもとで話し合うことになった。

 7 すると、絵里子さんはまたも結婚式のことをまくし立て、「物がなくなったのもお前がやったんだろ」、「(咲被告の)長女を蹴ったのは、お前が酒に酔ってやったんだろ」、「タバコの誤飲は長女が勝手に人の部屋に入ってきたからで、お前が見ていないからいけない」などと問いつめ、さらに「お前、死んでいなくなるか、離婚していなくなるか、どっちか選べよ」などと咲被告に迫った。

 8 咲被告は黙って感情を抑えて、泣きながらこらえるしかすべがなかったが、そのように言われたとき、感情を抑えきれなくなり、いきなり「表に出ろ」と言って外に出るように促し絵里子さんを外に連れ出そうとしたが、それができず、その場で顔を数回殴った。

 9 そのとき絵里子さんは前の男のことを思いだし、「お前もタカと同じことすんだな」「ああ死にてえんだよ」などと錯乱した。

 10 さらに咲被告に対し「おい、死にてえって言ってるだろ。死なないでくださいって言え」などと咲被告に迫り、そのうち自ら不幸な境遇と、咲被告の幸福な境遇との格差に対する怨念をぶちまけ、「お前のせいで、家族はバラバラだ。お前には兄ちゃんも長女もいる。楽しそうにしているお前が許せない。いいか、お前の一番大切なものを奪ってやる」と言い放った。

■第6 引っ越した後の状祝

 1 咲被告は、絵里子さんの「死んでいなくなるか、離婚していなくなるか、どっちかにしろ」「一番大切なものを奪ってやる」という言葉を聞いて、長女が危害を加えられるのではないかという不安にとりつかれるようになった。

 2 咲被告は、このような絵里子さんに対して「いつか闘うときがきて、決着を着けるときがくる」と考えるようになった。

 3 そして保育園にも、長女を自分か夫以外には渡さないように依頼するなどし、防犯カメラをつけようと試みたり、弁護士に依頼して訴訟を起こそうと考えるようになった。

 4 さらには10月初め、実家で咲被告の名前の表札だけがなくなっているのを発見してショックを受け、「自分は家族じゃない」「自分は家族から排除されている」という思いが募った。

 5 咲被告は実家から引っ越した後、夫が夜勤で、子供も寝静まり、ひとりになることが多く、その際絵里子さんの存在が頭から離れなくなり、いつも絵里子さんのことを考えて夜も眠れない状態が続いた。

 6 すでに2月ごろから絵里子さんから毎日のようにいじめられて、絵里子さんがいなくなればよいと漠然と思っていたが、その思いが、恐怖心もともなって、絵里子さんに長女が殺されるのではないかという観念にとりつかれた。

 7 10月下旬ごろ、絵里子さんが死んでいなくなれば、今までの幸せな生活が取り戻せるなどと考えるようになった。

■第7 犯行時、犯行後の状況、自首

 1 11月7日朝、勤務時間を間違えて登庁してしまったことから時間をもてあました咲被告は、いままで窃盗の犯人扱いされてきたことがらに関し、絵里子さんの自作自演を暴いてやろうと考え、富士見の家に行った。

 2 その際、はずされていた表札が絵里子さんのタンスの中から発見され、咲被告はいままで絵里子さんからなされてきたいじめ、絵里子さんが自分と長女に危害を加えようとしていることなどが頭にめぐり、感情が爆発し、絵里子さんを殺害しようと決意した。

 3 すなわち、蓄積された情動の一挙の発散としての実行行為である。

 4 このときの決意から、規範の問題に直面する機会がないまま、一挙に犯行まで及んでいるのであって、絵里子さんに対する心労から高まっていた精神的な緊張が、表札を発見したことで一挙に爆発した激情的犯行である。

 5 咲被告の立場では制御不能の状態であった。

 6 止め慣れている役場駐車場に車を駐車し、歩いて富士見の実家に向かった。

 7 歩いている途中、「もう殺して自分も死のう」と思っていたので、その途中、知人に会っても気にせず、絵里子さん宅に向かった。「金づちで2、3発殴れば、すぐに死ぬ」と思っていた。「殺して、自分も死んですべてが終わればよい」という心情になっていた。

 主として滑り止めのため準備していた軍手をし、絵里子さんを殴打した。だが、全然死なず、頭から血が流れ、起こっている事態に驚愕(きょうがく)し、いまさら後に引けないと思い、殴打を続けるも一向に死ぬ気配がない。その後、ひもで首を絞めてみようと試みたが、要領が分からず、力もないので、ほとんど効き目がない。

 「ああ、全然死なない。お願い、早く死んでよ」と焦る気持ちの中、包丁で刺すことを思いつき、軍手を脱ぎ捨て、包丁を手に取り、台ふきを柄に巻いて絵里子さんの首を刺した。

 8 咲被告は起こってしまった事態に驚愕し、逃走。とりあえず平静を装ってアパートに戻った。

 9 しかし、咲被告は苦しくて苦しくて仕方がなかった。

 10 咲被告は翌日、警察に参考人として呼ばれた。

 11 そのとき、夫が「本当のことを言ってね」と言った。

 12 しかし、咲被告は最初は怖くて言えなかった。

 13 しかし、咲被告は夫が「本当のことを言ってね」と言ったのを思い出し、取調官に本当のことを話した。

■第8 責任能力

 1 以上の通り、咲被告は絵里子さんが自分や自分の長女の生命に危害を加え、家族から排除しようとしているとの妄想に支配されて、このままでは長女が殺されるとの思いから犯行に及んでおり、咲被告は犯行当時、妄想性の統合失調症、妄想性障害、または鬱病(うつびょう)のいずれかに該当する精神の疾患により、事理弁識の能力または制御能力を欠いていたか、それらが著しく減退した状態にあり、心神喪失または心神耗弱の状態であった。

 2 咲被告の犯行当時の症状は、(1)不眠(2)不安(3)食欲不振(4)自信欠如(5)自己評価の低下(6)悲観的(7)疲労感(8)被害妄想(9)自殺念慮(10)さまざまな種類の迫害を受けているという確信(11)陰性症状(12)社会的機能の低下−などである。

 3 ストレス因としては、(1)実家から嫁に来たことによる生活環境の変化(2)子供の出産(3)仕事(4)結婚式(5)祖父の死(6)絵里子さんからのいじめ−が挙げられる。

 4 咲被告の人格特徴は「まじめ、責任感が強い、周りに気を使う、明るく振る舞う、優しい」というものである。この特徴は鬱病の病前性格のひとつとされている「メランコリー型性格」と一致する。この性格の持ち主は「きちょうめん、きまじめ、強い義務責任感といった秩序性と他人への配慮が強く、人と争えないといった対他的配慮性を併せ持った性格である。

■第9 情状関係

 1 咲被告の犯行時の精神状態は追いつめられていた。

 2 咲被告は反省している。

 3 絵里子さんの家族である咲被告の夫は、咲被告に対し、寛大な処分を望み、咲被告とは離婚せず、今後も咲被告を支えていくことを約束している。

 4 咲被告の専門学校時代の友人、職場の友人、昔からの友人が咲被告のために寛大な処分を望んでいる。

 5 絵里子さんの母は被害者感情を持っているが、現在、咲被告の夫とその長女と同居しており、処罰感情としては、こうした事件の被害者遺族としては、必ずしも大きな処罰感情ではない。

⇒第2回公判