(7)「クリーム捨てられた」「子供に危害」…嫌がらせの実態次々
弁護側は、咲被告と絵里子さんの日常生活でのやりとりについて詳細に質問していく。裁判長から声の小ささを指摘された咲被告は、鼻先が触れそうな距離まで顔をマイクに近づけて懸命に言葉を絞りだすが、傍聴席にその声はほとんど届かない。
弁護人「絵里子さんに洋服をあげたことがあったと思うが、その洋服はどうなった?」
咲被告「分からない」
弁護人「ハンドクリームもあげたということだが、これはなんで?」
咲被告「手が荒れていると言っていたから」
弁護人「ハンドクリームはどうなったの?」
咲被告「ごみ箱に捨てられた」
絵里子さんの態度に咲被告がストレスを募らせていたことを強調したい弁護側。家事分担についても質問する。
弁護人「料理はあなたが作っていたのか?」
咲被告「はい」
弁護人「(絵里子さんは)途中からあなたの作った料理に手をつけなくなったのか?」
咲被告「はい」
弁護人「それ以降は、あなたの買ったパンを、妹さんが部屋に持っていって食べていたということ?」
咲被告「はい」
弁護人「妹さんの分の洗濯もあなたがしていたのでは?」
咲被告「はい。投げっぱなしになっているのは洗濯していた」
弁護人「妹さんがどこかから遊んで帰ってきて、(服が)脱ぎっぱなしになっていたということ?」
咲被告「はい」
弁護人「料理と洗濯について、あなたはどう思ってた?『家政婦扱いされて嫌だなー』という感じはあった?」
咲被告「はい」
咲被告の心情を代弁するように細かく質問する弁護側。対する咲被告は、小さな声で肯定するのが精いっぱいの様子だ。
弁護人「妹さんのたばこを、(咲被告の)娘さんが飲んだことは?」
咲被告「飲んだんじゃなくて、口に入れた」
弁護人「それについて妹さんには何か言った?」
咲被告「お義母さんに言った」
弁護人「妹さんにあなたが直接(意見を)言うことはないの?」
咲被告「ほとんど…」
弁護人「お義母さんから妹さんに言ってもらえたのか?」
咲被告「はい」
弁護人「それについて妹さんは何て?」
咲被告「私の子供が勝手に部屋に入って、たばこを持っていったんだと…」
弁護人「それに対して言い返した?」
咲被告「いいえ」
弁護人「どうして?」
咲被告「………」
弁護人「何も言えないのね、あなたは」
咲被告「…はい」
絵里子さんにはほとんど意見を言えなかったという咲被告。昨年3月ごろには、咲被告の長女が突然泣き出し、近くに絵里子さんがいたため、咲被告は絵里子さんが子供に危害を与えたと勘ぐる事態もあった。
弁護人「あなたのお子さんが危害を加えられたのは、どういう状況?」
咲被告「私が目を離したすきに、娘が泣きわめいていて」
弁護人「どんな風に泣いてたの?『ママ、痛い』とか?」
咲被告「………」
裁判長「被告人、大事なところだから。弁護人からあまり誘導されるのもどうかと思うから、言いたいことがあるならちゃんと言って」
あまりに弁護側主導の質問に、裁判長が苦言を呈した。
咲被告「絵里子が家から出てきて…。(長女の)おなかが赤くなってたから…。私は…。(絵里子さんに)何かされたんだと思いました…」
咲被告も、切れ切れの言葉をつないで、やっと答える。
2人の間にはその後も、咲被告が絵里子さんから携帯電話や財布を盗んだのではないかとの嫌疑をかけられるなど、トラブルが頻発。昨年4月からは同じ職場で働き出すも、咲被告は6月には別の職場へ異動。弁護側はこの異動も、咲被告がストレスを増幅させた一因だと指摘した。
弁護人「職場異動を言われ、妹さんが嫌がらせをしてこうなったと思ったわけ?」
咲被告「はい」
弁護人「あなたは老人介護の仕事をやっていきたかったのに、知的障害者の施設の方に行くことになってしまったと。異動する日、絵里子さんから何て言われた?」
咲被告「『異動することになってかわいそうだね』と」
弁護人「(咲被告は昨年)7月16日に(絵里子さんと同居していた家から)引っ越しているが、これはいつころから決まっていたこと?」
咲被告「(新しい職場での)仕事が始まってから考えていた」
弁護人「引っ越すまで、あなたは(夜)眠れていた?」
咲被告「眠れないときもあった」
弁護人「眠れないときは泣いていた?」
咲被告「はい」
弁護人「どのくらい?」
咲被告「………」
弁護人「毎日?」
裁判長「毎日じゃない?」
弁護人「どのくらい? 週に1回は泣いてた?」
咲被告「はい」
誘導に近い弁護側の質問に、裁判長が顔をしかめた。