(9)「フット、ハンド、ボディー、バラバラ完了」ノートに記す
事件当日の状況についての質問が続く。祐輔さんと感情的なやり取りが繰り返されていたにも関わらず、歌織被告はなぜ1対1で『決着』をつけようとしたのか。女性検察官は疑問をぶつける。
検察官「弁護士に入ってもらって離婚の話を進めることもできたのでは」
歌織被告「理想はそうなんだろうが、1日でも早くこの生活を終わらせたかったし、逃げたかった」
検察官「(殺害翌日の平成18年12月)13日に両親が来て家を探す予定だったというが、引っ越してからではダメなの?」
歌織被告「逃げたら殺すとかずっと言われていたので、自分で何とかしなくちゃと思った」
検察官「(殺害当日)帰ってきた祐輔さんは暴力をふるう様子はあった?」
歌織被告「ものすごい緊張して、言葉が出ないぐらいの緊張感があった。『出方を間違ったらやられる』と」
検察官「暴力はなかった?」
歌織被告「はい」
検察官「帰ってきた時間が遅いことをどう思った?」
歌織被告「離婚から逃げて、どっかに寄ってきたんだなと思った」
午前中の弁護側の質問で、歌織被告は犯行後、茨城県内の2つの警察署に自首しようと電話をかけていたことが明らかになった。弁護側は軽く流したが、検察側はその真意に切り込む。
検察官「自首しようとしたのに何でやめた?」
歌織被告「怖くて言えなかった」
検察官「電話で何を話した?」
歌織被告「本当のことは言えず、とりあえず『警察の場所はどこですか』とごまかした」
検察官「日立署では7分ほど話したのでは?」
歌織被告「話したというより待たされて…いくら待ってもつながらず、切って、その後違う警察に電話した」
検察官「自首するなら、どうしてもっと近くにしないのか?」
歌織被告「携帯のサイトを見ていて、たまたま出てきた」
検察官「そこまで行くつもりだったのか?」
歌織被告「近くの警察の方に当然連絡が行って、来ると思った」
冷静な口調で、理路整然と質問に答える歌織被告。検察側は話題を変える。
検察官「遺体をバラバラにしたのは『ばれないようにしたい』という気持ちだった?」
歌織被告「そのときはそういうことを考える余裕はなかった」
検察側は証拠採用されているノートを歌織被告に見せる。犯行後に歌織被告が書いたとみられる『フット、ハンド、ボディー、バラバラ完了』などと書かれていた。
検察官「どういう意味か?」
歌織被告「分からない」
検察官「あなたが書いた?」
歌織被告「そうだと思う」
検察官「実際に切断したとき、手を切ったのは何のため?」
歌織被告「…」
それまでよどみなく答えていた歌織被告が一瞬沈黙する。女性検察官は『攻勢』をかける。
検察官「なぜ?」
歌織被告「運ぶときに、その…キャリーケースに入れるために…」
検察官「そんなに大きくないから入るでしょう?」
歌織被告「もともとは、最初は、その…腕のところから切るつもりだったが、ワイシャツを着ていたのでめくれるところから切るしかなかった」
検察官「寝るときにワイシャツを着ているのか?」
歌織被告「そうです」
検察官「手を切らなくても入るんでは、という質問なんだけど」
歌織被告「ギリギリで上半身が入るかという大きさ。実際測ったわけではないが…手を切らないと入らないと思った」
検察官「最初に左腕のひじあたりを切り、そのあと右手首。どうして変えた?」
歌織被告「最初に切ったとき大変だったので、少しでも簡単なところにしようと思った」
検察官「手首を切らないと入らなかったの?」
歌織被告「『切らなくちゃ』ということしかなかったので。今冷静に考えると、そんな必要はないかも知れないけど」
検察官「(ノートは)手を切らないと、指紋でばれるという計画を書いたものでは?」
歌織被告「違います」
裁判長の方に向かう歌織被告の表情は傍聴席からは読み取れないが、やや強い口調になっている。
検察官「頭部は?」
歌織被告「当初は袋に入れるつもりだったが、袋に入れると思った以上に重くて大きかった。どこかにやってしまうわけにはいかず、埋めるしかないと」
歌織被告は頭部を町田市の公園の雑木林に遺棄したとされる。
検察官「どこかにやれなかった理由は?」
歌織被告「私がやったと分かることもあるし…見つかったとき、周りへの衝撃ということもあるし、さすがにそれはというのがあり…」
常識的なコメントを返す歌織被告。自分の犯行だとばれることを防ごうとする目的を、控えめに認めたことになるが、さらに言質を取ろうとする検察側に対しては、無難な言葉を返した。
検察官「(犯行が)ばれるのがいやだったということか?」
歌織被告「そのときはそういうことよりも、家から遺体を出したいということで一杯だった」
検察官「(犯行4日後の)16日に遺体の一部が発見された。自首は考えなかった?」
歌織被告「考えたが、怖くてできなかった」