(8)「起きあがって向かってきたので、また殴った」
午後の尋問は予定より3分早い午後1時27分に再開。具体的な殺害の状況や経緯を明らかにすべく、検察側の質問が続く。
まずは殺害の状況についての質問から始まった。それまでのはっきりとした口調から一転、歌織被告の声はか細い。
検察官「殺害の際、祐輔さんをどのように殴ったのか」
歌織被告(無言のまま両手でワインボトルを振り下ろす動作をする)
検察官「どのくらいの高さから振り下ろしたのか」
歌織被告(右肩の上に両手を振り上げて)「ここらへん」
検察官「どのくらいの力で振り下ろしたのか」
歌織被告「わからない」
検察官「手加減はしたのか」
歌織被告「わからない」
頭を狙って殴ったわけではないことを主張したいのか、歌織被告の声がようやくはっきりしてくる。
検察官「体のどこをめがけて振り下ろしたのか」
歌織被告「特にめがけたところはなく、自分のいる位置から振り下ろした」
検察官「頭をめがけたのでは」
歌織被告「わからない。座った位置で一番当たりやすい所を殴った」
裁判長が検察官をさえぎり、質問をする。
裁判長「そのとき、祐輔さんの体で、布団から出ていたところは首から上か」
歌織被告「はい」
裁判長「出ているところをめがけて殴ったということか」
歌織被告「はい」
検察側の質問に戻る。検察側は殺意を立証すべく、歌織被告を問いつめる。
検察官「2度目以降はどこをめがけて殴ったのか」
歌織被告「彼が起きあがってきたので、向かってきたところを殴った」
検察官「殴っているときは殺そうという気持ちがあったのか」
歌織被告「ただ必死だった」
検察官「一発目を殴ったときはどんな気持ちか」
歌織被告「とにかく彼から逃げたい」
質問は殺害状況から、殺害前日の様子に移る。
検察官「(殺害前日の平成18年)12月11日、ICレコーダーで、祐輔さんと交際相手の会話を聞いたとき、どう思ったのか」
歌織被告「やっと逃げられる」
検察官「腹が立ったのではないか」
歌織被告「腹を立てたよりも、レコーダーの使い方で何をされるか分からないという気持ち」
検察側が、歌織被告の手帳を被告本人に示す。
検察官「これはあなたのものか」
歌織被告「はい」
検察官「(書かれている事柄を指し示して)これは何を記したものか」
歌織被告「ICレコーダーの聞き取れた部分を書いた」
検察官「何のためか」
歌織被告「目的はない」
検察官「ICレコーダーを聞いた時点でどう使おうと思ったのか」
歌織被告「特にはなかった」
検察官「離婚の話をするときに使おうとは思わなかったか」
歌織被告「きっと彼が怒って、何をされるか分からないと、母に電話で言われた。出さないようにした」
検察官「母に電話をしたのはいつか」
歌織被告「(12月11日に)○○さん(歌織被告の友人)が家に来るのを待っていたとき」
検察官「それでは、どのように離婚の話を進めようと思ったのか」
歌織被告「ただ話そうと」
検察官「ICレコーダーのことは」
歌織被告「以前(ICレコーダーを使っていることを祐輔さんに)ほのめかしたので、話の中では出るだろうと思った。会話を録音したことは言ってはいけないと思った」
検察官「祐輔さんにICレコーダーを使っていることをほのめかしたのはどのようにして?」
歌織被告「彼は乗馬をしていないのに交際相手に『乗馬をしている』と話していた。そういうことを彼に話した」
検察官「ICレコーダーを(殺害前日、自宅に訪れた友人に)聞かせた理由は」
歌織被告「別に目的はない」
検察官「ICレコーダーを聞いて腹が立たなかったのか」
歌織被告「○○さんと聞いているときは、ただ彼に早く帰って来てほしいと思った」
検察官「○○さんは被告が怒った様子だと言っていたが」
歌織被告「○○さんといるうちに彼に帰って来てほしくてハラハラした気持ち」
検察官「祐輔さんにはその日、何時に帰って来てほしいと言ったのか」
歌織被告「具体的には言っていない。彼には家にいろと言われた。彼の様子から、早く帰ってくるだろうと思った」
殺害前日の時点で、すでに歌織被告の殺意が芽生えていたことを証明したいのか、検察側はなぜ歌織被告が、一人で離婚話を進めようとしたのか、質問を続ける。
検察官「どうして離婚の話をしようと思ったのか」
歌織被告「ICレコーダー(の内容)が手に入ったことと、翌日に自分の両親が来ることになっていた」
検察官「両親が離婚に賛成しているのになぜ自分一人で話をしようとしたのか。両親が来てからでもいいのでは」
歌織被告「それができればいいが、私の両親と彼の仲は悪く、何度も言い合いになった。できれば親に入ってもらうのが望ましいが、その前に彼と話をつけたかった」
検察官「浮気の証拠を手に入れたのだから、話し合いの必要もないのでは」
歌織被告「ただとにかく離婚して欲しい。話し合いというと語弊がある。何かを話し合って結論を出そうとしていたわけではない」