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(5)歌織被告「今でも血のにおい」は幻嗅か

検察側は、歌織被告が犯行後もずっと血のにおいが離れなかったという『幻嗅』についての質問に入った。歌織被告は時折、手元のメモを見やりながら、やりとりを聞き入った。

検察官「『幻嗅』について聞く。祐輔さん殺害後、どこにいっても血のにおいがしたと言っていたのか?」

金鑑定人「それは今でも続いていることだ。明らかな幻嗅と考える」

検察官「今でも?」

金鑑定人「そうだ。といっても、これは1カ月に1回くらいしか出ない症状。はっきりとしたにおいを感じるということだ」

検察官「犯行後、遺体と一緒にいて、かなり長い時間、血のにおいをかいだわけだ。だから血のにおいがするのは自然ではないのか?」

金鑑定人「そこは難しい。犯行後しばらくは正常反応かもしれないが、その後、被告は換気扇のある部屋で寝るようになった。においが同じ強さで続いていたということは、幻覚という判断ができる。そこにないはずのものが見えるというのは幻覚で、そこにないにおいを感じるというのも幻覚だ」

検察官「しかし、かなり血のにおいをかいだわけでしょう。その判断は難しいのではないか?」

金鑑定人「確かに、犯行後にPTSDになる人もいる。ただ、その場合はいろいろなものに恐怖を感じるはずだが、歌織被告の場合は血液に対してだけだ。いろんなものと一緒ならわかるが、血液だけに限定しているのは(PTSDにしては)解せない。トラウマ反応というのもあるが、もしそうなら、それ(においを感じる)以外の症状があるはずだ」

検察官「においに特徴はあるのか?」

金鑑定人「不愉快なにおい。こう言ったらいけないが、生臭いにおいだ。彼女にとって生臭い、不愉快なにおい」

検察官「それは被告自身の表現か?」

金鑑定人「そうだ」

ここで検察官が金鑑定人のそばに行き、資料を示す。

検察官「(ページを示して)ここで遺体切断の話をやりとりしているね?」

金鑑定人「はい」

検察官「鑑定人が『今のにおいはどんなにおい?』と聞いて、被告が『血のにおいかな』と答え、その後、鑑定人が『リアル?』ときいて、被告は『はい』と答えたと書かれているね?」

金鑑定人「そうだ」

ここで検察官は、歌織被告の責任能力について質問を始める。

検察官「鑑定人は責任能力についてどう思うか?」

金鑑定人「鑑定して、そこから後は法廷の責任だと思う。鑑定で不足な部分があれば、質問していただきたい」

検察官「祐輔さんが暴力をふるっていたことについて争いはない?」

金鑑定人「はい」

検察官「でも、被告と祐輔さんの関係は、被告の堕胎、祐輔さんの暴力、浮気などがあって、夫婦仲は悪くて、それで離婚の危機になったという認識でいいか?」

金鑑定人「夫婦の不和については全く考えていない」

精神鑑定以外の質問に、金鑑定人の声がややイラ立つ。歌織被告は鑑定人をじっと見つめる。

検察官「夫婦仲が悪くて離婚の危機だったとは認識している?」

金鑑定人「そこは…はい」

検察官「そして事件当日は、被告がICレコーダーで祐輔さんの浮気の証拠をつかんで、2人で紛争が起きようとしていた?」

金鑑定人「紛争…言葉がよくわからないが、それはそうだ」

検察官「これは無差別殺人などではないよね」

金鑑定人「それは私にはわからない」

検察官「ワインボトルを肩まで持ち上げて、ボトルの上の方を持つのは、殴ろうという意識の表れともいえるのではないか?」

金鑑定人「事実認定についてはわからない。被告が言うことを、医学的見地から見るだけだ」

検察官「被告の言うことが本当という前提でしょう?」

金鑑定人「本当かどうかではなく、荒唐無稽(むけい)な話はしていないのだから、そこから医学的見地で考えるだけだ」

検察官「ボトルで殴った後、祐輔さんはどう動いたと歌織被告は言ったのか?」

金鑑定人「向かってこられた、と」

検察官「殴られた後、かなり祐輔さんは動き回ったのか?」

金鑑定人「…はい」

検察官「祐輔さんの頭部に多数の打撲痕があったのは多数回、殴られたからでは?」

金鑑定人「それはわからない」

イラ立った様子の金鑑定人。ここで裁判長が検察官に、犯罪行為の事実認定の質問を控えるよう促した。

検察官「鑑定人は、被告が遺体を捨てるときに、遺体を袋から出すという深刻さが分かっていなかったと言っているが、どういうこと?」

金鑑定人「遺体を取り出して捨てるという行為がそれだけ世間を騒がせ、嫌疑が自分に及ぶかもしれないということが、わかっていないということだ」

⇒(6)「血を流す裸の美人はフィギュアのよう」歌織被告の幻覚が詳細に