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(10)「性的写真」気にする裁判長 次回は再び歌織被告が証言台へ

公判終了予定時刻の正午を過ぎたが、鑑定人への質問は尽きない。裁判官2人に続き、今度は河本雅也裁判長が金吉晴鑑定人に質問を始めた。

裁判長「金先生に聞く。被告はワインの瓶を数回打ち下ろして(祐輔さんを)殺害して、死体を損壊している。完全錯乱状態の人間が頭だけに被害を加えられるのか。また自ら(死体を)運んで捨てることができるのか?」

金鑑定人「錯乱が一番強くなると、記憶がなくなってしまう。気が付いたら誰かを殺していたというような。本件の場合はそこまで行っていない。錯乱と言ってもそこまでのレベルでとどまっていた可能性がある。では(犯行を)止められたかと言うと、本件の犯行時にどうだったのかはわからない」

裁判長「木村(一優)先生に聞く。(歌織被告が)シェルターに逃げて、一度(自宅に)戻ってきてからは、その後の祐輔さんの行為などから逃げられない状態になっていたと言っていいのか?」

木村鑑定人「病状的にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)が悪化する要件しかなく、シェルターから出てからこそが、『囲い込み』の状況がますますできていった。家族の関係がうまくいっていなかったことも大きいが、囲い込みがあったことが逃げられなかった一番大きな理由だ」

裁判長「被告はアルバイトをしたり、次の生活に向けて不動産を探したりしている。逃げられないというのは、最終的に家に帰ってしまうということか?」

木村鑑定人「生活の基盤自体がDV(配偶者間暴力)の場になっており、そう簡単に逃げられなくなっていた」

裁判長「私は『写真』という言葉が気になっているのだが?」

裁判長が言うのは、祐輔さんが撮影していたという歌織被告のわいせつな写真のことだ。以前の鑑定人尋問では、歌織被告がDVを受けても祐輔さんの元に戻っていた大きな理由として、その写真の存在が挙げられていた。

木村鑑定人「まず、それ(囲い込み)があって、ほかにも(理由が)ある。写真もそうだ。主なのはDVがあったことだ」

金鑑定人「私が診ている患者さんでも、自分の家で両親といて、DVをする男性から『出てこい』と電話で言われると出ていく人がいる。一種の洗脳状態にかかっているわけだ。彼女(歌織被告)がそうかどうかはわからないが、実際にそういう人もいる」

裁判長「これで裁判所で依頼した鑑定はすべて終わった。どうもご苦労様でした」

午後0時24分、鑑定人尋問は終了した。証言席を立った木村鑑定人と金鑑定人は検察官3人に一礼して退廷した。その間、歌織被告は2度も鑑定人2人に頭を下げた。

裁判長「検察官、弁護人、被告人質問の必要性あるね?」

裁判長の問いかけに、検察官、弁護人とも無言でうなずく。

裁判長「では次回、被告人質問を行う」

検察官「被告の精神鑑定を請求する」

女性検察官が立ち上がって、再度の精神鑑定を求めた。理由として挙げたのは、歌織被告の証言の信用性が吟味されていない▽犯行時の精神状態について他の証拠との整合性が検討されていない−ことなどだ。

弁護人「(鑑定は)必要ない」

裁判長「次回判断する」

裁判長がそう告げ、終了した。歌織被告は弁護人としばらく言葉を交わし、退廷した。次回公判は3月27日午後3時から、再び歌織被告への質問が行われる。

⇒第12回公判