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(1)「暴力PTSD関係ない」歌織被告の病状

夫の殺人と死体損壊・遺棄の罪に問われた三橋歌織被告(33)の第11回公判は、24日午前9時59分、東京地裁104号法廷で始まった。傍聴席はすべて埋まり、改めて事件への関心の高さがうかがえる。

歌織被告は開廷の1分前に入廷。白の上下スウェットを身につけ、前方をじっと凝視する。

この日の公判は、河本雅也裁判長と弁護側が歌織被告に対する鑑定について鑑定医2人を尋問した10日の第9回公判に続き、検察側の尋問が行われる。鑑定では、鑑定医2人がともに「歌織被告は犯行時に責任能力を喪失していたことが推認できる」として、刑事責任が問われない心神喪失という結果になっていた。検察側にとっては衝撃的な内容だが、検察官はこれを突き崩すべくさまざまな角度から質問を始める。

鑑定医は、検察側が申請した国立精神・神経センター精神保健研究所の金吉晴精神保健部長と、弁護側が申請した「こころのクリニック石神井」の木村一優医師。今回も2人の証人を証言台に並ばせて同時に尋問する「対質(たいしつ)」を採用した。

裁判長「金鑑定人から補充説明をしたいということなので、15〜20分説明をしてもらい、その後に検察官の質問に移る。必要があれば、1人だけ座ってもらって質問することも柔軟にやっていこうと思う」

入廷した金鑑定人はまず、「鑑定人の立場」について説明を始める。

金鑑定人「鑑定人は被告を裁くのではなく、理解するために鑑定する。(刑事裁判の原則である)推定無罪の精神で。前回、可能性があれば、『推測』という言葉を使って表現していた。心神喪失についても『推測できる』という表現にしており、可能性について言及した」

金鑑定人は、歌織被告が心神喪失であったことを絶対視しているわけではない、ということを強調したいようだ。この意図は次の言葉で鮮明になる。

金鑑定人「被告について心神喪失が考えられない点もあり、それは検察側、弁護側双方に伝えている。その点を質問するように検察側には言っていたが、前回は時間がなく、そこまでいかなかった」

この言葉は、歌織被告が心神喪失であったことを一部“否定”する発言とも解釈することができ、新たな展開が予想される。しかし、これを聞いても歌織被告の表情は乏しい。正面を向き、時折、首を曲げる程度の動きしかみられない。金鑑定人の説明が続く。

金鑑定人「今回の鑑定は共同鑑定ではない。データの交換をしたが、鑑定意見の交換はしていない。同席面接はしたが、それは鑑定の信頼性を高めるため。被告と面接したのは40時間に及ぶが、そのうち同席面接は8時間程度だった」

金鑑定人は鑑定の正当性を強調する。続いて鑑定結果で出た病状「短期精神病性障害」について説明していく。

金鑑定人「犯行はPTSD(心的外傷後ストレス障害)とは関係ない。短期精神病性障害はPTSDとは別の病状。犯行時だけ出る都合のいい病状と思われがちだが、100年以上研究され、広く知られている」

金鑑定人は短期精神病性障害について「夢幻様障害」と言い換え、混濁や意識変容などの意識障害について表現してみせた。その後、医学的見地から犯行時の症状について、キッチンでは「混濁」、リビングに戻った際には軽くウトウトして自発性が乏しくなる「混耗」などと説明。次のように症状を結論づけた。

金鑑定人「幻覚など急激な意識障害に、睡眠不足が重なった」

一方で、金鑑定人は鑑定時期の遅さを指摘する。

金鑑定人「もっと早い時期にそうした病状について鑑定できていれば、もっと明確にできたと考えられる」

続いて、病状がなければ犯行はなかったかについての説明に移る。

金鑑定人「夫の暴力、そのまま先に寝るという犯行の機会はいくつもあったのに、何かがあったわけではない。とすると、病状が出ていなければ、犯行はなかったと考えられる」

やはり心神喪失なのか。この言葉で再び判断が難しくなった。

⇒(2)「火の見櫓のお七」の幻覚見た歌織被告