第35回公判(2012.3.13) 【最終弁論】

 

(8)練炭燃やしたマッチ「なぜ持ち去らなければ」可能性指摘し続ける弁護側 木嶋被告は無表情

木嶋被告

 首都圏の連続不審死事件で殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判(大熊一之裁判長)は、10分間の休憩を挟み、弁護側による最終弁論が続いている。

 平成21年5月、千葉県野田市の無職、安藤建三さん=当時(80)に睡眠導入剤を飲ませて眠らせた上で、コンロを使って練炭に火をつけて殺害した事件に対する弁護側の反論が再開された。

弁護人「安藤さん家から発見された練炭が、木嶋さんが購入した物かどうか」

 弁護側は焼け跡から発見された練炭の入ったコンロに火災で発生した土砂やがれきが混ざったていたと指摘する。

弁護人「成分分析する上で、土砂など異物の混入は致命的。成分比率が変わってしまうから」

 壁の大型モニターに練炭の分析結果が映し出される。木嶋被告もじっと見上げている。

弁護人「1から0・1など数パーセントの元素を同一か否か判定する際、分析の前提が崩れてしまう。この結果を基に同一であるとは言えません。今となっては、当時何があったのか正確に知ることはできないのです」

 さらに、弁護側は、検察側の主張する木嶋被告が安藤さんの口座から100万を自身の口座に入金したという点に反論にかかる。検察側は12日の論告求刑で「口座の残高は千円。根こそぎ持っていった」などとしていた。

弁護人「(木嶋被告の)自分名義の口座に直接送金している。そんな怪しまれるようなことをするのは不自然です」

 弁護側は検察側が主張する木嶋被告による自殺偽装工作を否定する。そして検察側の練炭を使っての放火という筋書きにも「無理がある」と主張する。

弁護人「動機がない。介護ボランティアをやめたら自殺すると周囲の人が思うでしょうか。火事が起こると、発見が早ければ安藤さんは助け出されるかもしれない。そうなれば、たちどころに犯人であると発覚してしまうではないですか。安藤さんはヘビースモーカーでした。火の不始末もあったかもしれません。検察側のいう『殺害したことに間違いない』とはいえません。無罪です」

 安藤さんの事件について、弁護側が反論を終えたと同時に、検察側が異議を唱えた。弁護側が安藤さんの遺族の証言を誤って引用していたのだ。検察官は語気を強め、弁護側に訂正を求めた。

 弁護側は訂正を認めると、次の反論に移った。

 木嶋被告は、平成21年8月、埼玉県富士見市の駐車場で駐車中のレンタカーの車内で練炭を燃やし、薬物で眠らせた交際相手の東京都千代田区、会社員、大出嘉之さん=当時(41)=を一酸化炭素(CO)中毒で殺害したとされる最後の事件だ。

 検察側は、(1)レンタカーのカギが現場になかったこと(2)練炭に火を付けるのに使ったとされるマッチを入れたマッチ箱が現場になかったこと−の2点から、大出さんの自殺を否定している。

弁護人「木嶋さんが現場を離れてから、警察官が捜索を始めるまでに8から9時間もの時間がたっている。第三者に持ち去られた可能性もある」

 弁護側によると、警察官は車内や駐車場内を捜索。翌7日には、駅への道路なども捜索対象に広げた。

弁護人「現場に発見されていない物の中に、お土産や旅行に使った着替えの入った紙袋がある。これは大出さんが木嶋さんとの間に思い出のある品々だった。別れた相手の思い出を捨てることはあり得る」

 弁護側は、レンタカーのカギがこの紙袋に紛れ込んで、大出さん自身が一緒に捨ててしまったと主張。さらに、「実際にマッチで火を付けたとはかぎらない。自殺するのだから冷静な判断はできず、紙袋に入れて一緒に捨ててしまった可能性もある」と訴えた。

弁護人「なぜ、木嶋さんがかぎやマッチ箱を持ち去らねばならないのか。自殺を偽装するなら、車の中に置いていくはずだ。自殺を否定することにはならない」

 木嶋被告は目の前に立った弁護人を、無表情で見つめている。

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