第35回公判(2012.3.13) 【最終弁論】

 

(6)「リスク高いことするはずない」無断カード使用にも反論 木嶋被告は熱心にメモ

木嶋被告

 首都圏の連続不審死事件で殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判(大熊一之裁判長)は約40分の休憩を挟み、弁護側による最終弁論が再開された。午前に続き、千葉県野田市の無職、安藤建三さん=当時(80)=殺害事件について弁護側は意見を述べる。

 起訴状によると、木嶋被告は平成21年5月、安藤さんに睡眠導入剤を飲ませて眠らせた上で、コンロを使って練炭に火をつけて殺害したとされる。

 出火原因は「安藤さんのたばこの火の不始末」と主張する弁護側に対する検察側の主張は、こうだ。

 (1)安藤さんの遺体が見付かった4畳半部屋からたばこの灰皿や吸い殻が見付かっていない

 (2)血中の一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が高く、長時間にわたり一酸化炭素を吸引していたと考えられる

 (3)気道にほとんどすすが付着していない−などの理由で、不自然だと追及してきた。焼け跡からはコンロに入った練炭も見付かっている。

弁護人「4畳半にたばこの吸い殻や灰皿がなかったからといって、不自然とは言えません。安藤さんは、灰皿がなくても喫煙をしていました」

「吸い殻は高温の熱によって燃え尽きたり、消火活動のさなかにどこかにいった可能性もある。たばこの火の不始末を否定できるわけではない」

 血中の一酸化炭素ヘモグロビン飽和度の高さについては、こう説明する。

弁護人「安藤さんの元もとの一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が分からない。喫煙者の多くは一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が通常の4〜10倍の高さというデータがある。安藤さんのもともとの一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が高かった可能性があります」

 また、気道にすすが付いていないことについても反論する。

弁護人「火災でどの程度すすが出たか分からない。布団をかぶっていたり、すすを吸い込みにくい寝方をしていたかもしれません」

 弁護人は安藤さんが気道に熱傷を負っていたことを指摘する。

弁護人「すすがついてないにもかかわらず、気道の奥までやけどをしていた。火災で生じた高温の空気を吸い込んだということ。すすの少ない火災だった可能性があります」

 木嶋被告はしきりに髪の毛を耳にかけたり、目線を廷内にめぐらせたりとやや落ち着きのない様子だ。

 一方、検察側の指摘に対し1点ずつ反論していく弁護人。反論をまとめるかのように、どのような火災だったかについて仮説を提示した。

弁護人「4畳半で、この日、何があったのでしょうか」

「安藤さんは、灰皿代わりになる何かにたばこを置いたかもしれない。何らかの拍子に、紙や布団など何らかの可燃物に引火した」

「どこかの段階で、練炭に火がついた。ここで、安藤さんは高濃度の一酸化炭素を吸い込んだ。高温の空気も吸って、気道の奥までやけどをした。このような火災であれば、いずれとも矛盾するものではありません」

 次に弁護側は、安藤さん殺害の動機について言及する。

 検察側は、木嶋被告が安藤さんのクレジットカードやキャッシュカードを無断で使用し、安藤さんとの交際を絶つために殺害したという構図を描いている。

弁護人「検察側の主張する動機には、やや飛躍が多いと考えます」

「安藤さんと木嶋さんは確かに結婚サイトを通じて知り合いましたが、結婚相手の候補ではありませんでした。一度もメールに結婚という言葉は出てきません」

「安藤さんは好奇心が強く、自分の身の回りの世話をしてくれる女性を求めていました。何か約束をともなう関係ではありませんでした」

「関係を絶とうとした理由はありません。嘘を言って金をもらっていたのは確かですが、結婚前提ではないので動機にはなりません」

「当然、嘘がばれることで金を返すことを要求されたかもしれませんが、他の男性から援助を受けて返すことも可能です。(安藤さんから受け取った)50万円のために殺すとは考えられない」

 また、「無断でカードを使用した」という検察側の主張についてこう反論する。

弁護人「木嶋さんはカードを勝手に使ったことはありません。検察側の主張は無理があると言わざるを得ない」

「安藤さんは自分でATMに行くことができ、残高を確認できた。また、請求書が届けば無断使用に気づくはず。気づいて、返済を求めた証拠はありません」

「発覚のリスクがかなり大きい。普通、犯罪をしようとすれば請求書が届かないようにするとか発覚しない状況づくりをするが、木嶋さんがそういうことをした形跡はありません」

 クレジットカードの請求書を受け取った安藤さんは、木嶋被告に「何を買ったのか」というメールを送っている。

弁護人「なぜ勝手にカードを使ったのか、という追及のメールではなく、買い物の内容を聞いている。安藤さんがカードを使うことを許可していなかったらこういうメールにはなりません」

 また、現金を引き出す際、木嶋被告が暗証番号を間違えたことについてはこう説明する。

弁護人「木嶋さんが暗証番号を間違えたのは事実です。でも、木嶋さんは最初は暗証番号を間違わずに普通に現金を引き出している。勝手に引き出そうとするなら、番号をメモして、確実に引き出すはずです。その都度、番号を安藤さんに聞いていたことを意味するのです」

 あくまでカードなどは安藤さんの許可を得た上で使用していたと主張する弁護人。木嶋被告は熱心にメモを取り続けている。

⇒(7)度重なる記憶喪失も弁護側「睡眠薬ではなく発作」 長時間弁論に木嶋被告顔赤らめる