第35回公判(2012.3.13) 【最終弁論】
(2)「異議あり!」弁護側に検察官噛みつく 木嶋被告は無関心
首都圏の連続不審死事件で、殺人罪などに問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判は、弁護側による最終弁論が続いている。弁護側は無罪を主張する理由を、裁判官や裁判員に説明している。それは次の2点だ。
(1)3件の疑わしい事件があるから有罪とはできない。
(2)類似しているからといって、別の事実を認定することは、原則として許されない。
法廷の左右の壁に設置された大型モニターに、弁護側の説明が箇条書きにされた主張が映し出される。木嶋被告は左手をこめかみにあて肘をつき、じっとモニターに見入っている。
弁護人「では、具体的な話をしましょう」
弁護側は、平成21年1月に東京都青梅市のマンション室内で、こんろ6つに入れた練炭を燃やし交際相手だった会社員、寺田隆夫さん=当時(53)=を殺害したとされる事件について話を進める。
弁護人「検察官は死亡推定日を1月31日としていますが、これは間違いないでしょうか。検察官がそう主張するのは、次の点からです…」
検察の主張する死亡推定時刻について疑問を提示した弁護側は、寺田さんの遺体の腐敗状況に触れる。
弁護人「寺田さんの遺体の下に敷かれていたホットカーペットの熱の影響を考慮することが重要。証言に立った医師はホットカーペットの熱が検証されていないと言っています。印象に基づき、実験に基づく実証的根拠を経ているわけではない」
さらに弁護側は、検察官が寺田さんの定期券の使用状況をひとつの判断材料として、死亡推定日を決めていると指摘する。
弁護人「寺田さんが最後に定期券を使った期日が1月30日。この後、定期券を使っていないからといって、亡くなったことにはならない」
「このように寺田さんの死亡推定日が1月31日であることが間違っていないとは言えないのです」
弁護人は、木嶋被告が殺害に用いたとされるマンション室内から発見されたコンロについて説明を始める。
寺田さんの死を当初、自殺と判断していた警視庁は、練炭やコンロを押収していなかった。そのため、検察官は12日の論告求刑公判でも、状況証拠を積み上げて木嶋被告の犯行を印象づけていた。
検察官はコンロの溝の形などから、製造元を特定したとされる。しかし、弁護側は写真を元にした検察側の判断について疑問を口にする。
弁護人「科学的な分析はない。(検察側が分析につかったコンロの)写真はひとつの方向から撮影されたものであり、光の加減や現像の仕方次第では変わってくる」
弁護側の説明に合わせて、コンロの写真が次々とモニターに映し出される。弁護側は、コンロに貼られたラベルや注意書きの位置について示し、必ずしも製造元を特定できないと主張している。
木嶋被告はハンカチで口元を抑えたり、髪をかき上げたりしながら、じっと見入っている。
検察官「異議あり!」
証拠に指定されていないコンロの写真が映し出されたのを機に、検察官が異議を差し挟んだ。とうとうと続いていた弁護側の最終弁論がさえぎられた。
木嶋被告は表情を変えることなく、手元の資料を見つめている。