2011.5.19
裁判員制度施行2年 押尾被告公判の裁判員「最後まで見届ける」 控訴審も傍聴
「今、一番会いたい人は誰ですか?」「息子です」
これだけは直接尋ねなければ、と法廷で切り出した質問。被告から返ってきたのは、最も聞きたかった答えだった。昨年9月、保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優、押尾学被告(33)の裁判員を務めた不動産業、田口真義さん(35)にとって、今も忘れられないやり取りだ。
著名人が被告となった裁判員裁判として、大きな注目を集めた公判。押尾被告を含む20人が法廷に立ったが、救急への通報時刻など証言は度々食い違った。
公判が進むうち、間もなく3歳という押尾被告の長男の存在が、頭から離れなくなった。「加害者の家族も、酷な人生を歩むことになると思う。だからこそ被告には、『父親としてこうありたい』というメッセージを発してほしかった」。最後の質問で、家族への思いを問うた。
わずかに考えた後、問いに答えた押尾被告。田口さんは、「この言葉は、いつか息子さんの支えになるはず。子供の健全な未来を考えることも、われわれの定めだと思った」と振り返った。
東京地裁は保護責任者遺棄罪を適用し、押尾被告に懲役2年6月の実刑判決を言い渡した。2審東京高裁は4月、押尾被告の控訴を棄却し、現在、上告中だ。
田口さんは、「自分がかかわった裁判だから、最後まで見届ける責任がある」と、控訴審をすべて傍聴した。現行の制度では、裁判員経験者に控訴審の期日や判決内容が知らされることはない。整理券配布にも並んだ。田口さんは、「控訴審の期日を知らされれば、負担に感じる経験者もいると思う」としながらも、「希望者には傍聴席を確保してもらいたい」と話す。
ともに審理に参加した他の経験者とは連絡先を交換しないまま、散り散りとなった。現在は裁判員の経験を伝える活動をしながら、いつかは再び集まって、「大変だったね」と話せる日が来ればと願っている。