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2010.9.23

 

「今回は正直にすべて話した」はずだったのに… 押尾被告の明暗分けた専門家と「うそ」

押尾被告

 元人気俳優に裁判員らが下した答えは実刑だった。合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した女性を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた押尾学被告(32)の東京地裁判決。「自分は女性を見殺しにしていない」。同罪の成否をめぐり検察、弁護側が激しいつばぜり合いを演じる中、押尾被告は身ぶりを加えながら裁判員らにアピールした。前回裁判での「うそ」も“自白”する背水の陣を敷いたが、その結果は厳しいものとなった。結論を分けたものとは何だったのか?

◆「相当に疑問ある」「明らかな虚偽」… 判決は供述の信用性を否定

 「実刑ですか? 執行猶予ですか?」

 今月17日、判決言い渡しが終わった東京地裁の法廷で、押尾被告は弁護団に小さな声で尋ねた。

 「押尾被告が直ちに119番通報したとしても救命が確実だったとまではいえない」。東京地裁は保護責任者遺棄致死罪の成立は認めなかったものの、保護責任者遺棄罪を適用。女性へのMDMA譲渡などほかの3罪についても有罪とし、押尾被告に懲役2年6月の実刑を言い渡した。

 言い渡しの冒頭で山口裕之裁判長はゆっくりとした口調で実刑を告げた。しかし、弁護人によると、押尾被告は実刑判決と執行猶予付き判決のどちらを言い渡されているのか理解できないまま、判決の読み上げを聞いていたという。

 とはいえ、言い渡し中の押尾被告はじっと前を向いたまま、険しい表情を崩さなかった。

 「被告人は前回の裁判でも虚偽の供述をするなどしており、自己に有利な供述の信用性には相当に疑問があると言わざるをえない」

 「被告人は明らかな虚偽供述をしている」

 「被告人の供述は信用できない」

 押尾被告の公判での供述の信用性について、判決文が厳しい文言で次々と否定していったためだ。

 弁護人が実刑判決であることを伝えると、押尾被告は落胆の色を隠せない様子で、判決への不満をあらわにしたという。

 「自分は不利なことも含めて法廷で供述したのに、このように認定されて納得できない。控訴してほしい」

 弁護側は判決を不服として、即日控訴した。

◆検察側vs弁護側 激しいつばぜり合い

 公判で最大の争点となったのは、押尾被告と一緒に東京・六本木ヒルズのマンションでMDMAを服用した後に死亡した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=に、救命の余地があったかどうかだ。

 検察側は、「田中さんの死亡時刻は異変の約1時間後」とした上で、「異変直後に119番通報し、医療機関に搬送されていれば田中さんは助かった」と主張し、押尾被告に懲役6年を求刑していた。

 これに対し、弁護側は「異変が起きてから死亡するまでは数分程度で、救急車を呼んでも救命の可能性は低かった」と、保護責任者遺棄致死罪の成立を否定。また、「服用したMDMAは田中さんが持参したもの」として、押尾被告が田中さんにMDMAを譲渡したとする麻薬取締法違反(譲渡)罪についても無罪を主張し、執行猶予付きの刑を求めていた。

◆分かれた専門家の意見 裁判員の判断は…

 検察、弁護側双方の立証の根幹となったのが、専門家の証言だ。この事件では当事者の1人である田中さんはすでに死亡し、経緯を知るのは押尾被告だけ。状況証拠を積み重ねるため、検察側は2人、弁護側は1人の救命救急医をそれぞれ証人として申請した。

 検察側証人として出廷した医師の1人は、田中さんが若いことや、心臓疾患がないことなどを挙げ「病院に運ばれる前に、心停止の一歩手前の状態になったとしても、9割方助けられたと思う」と説明。もう1人の医師も「救急隊員以上だったら、取り返しのつかない事態になるまでの時間稼ぎができる」と証言した。

 これに対し、弁護側証人の医師は、「田中さんのMDMA血中濃度は致死量をはるかに超えていた」と指摘。心停止する前に病院へ搬送された場合の救命可能性は30〜40%だとした。

 専門家の意見も正反対に分かれる状況の中で、判決は各医師の意見を丁寧に検証。その結果、「被害者が錯乱状態に陥った後、被告が直ちに119番通報したとして、救命が確実であったことが合理的な疑いを入れない程度に立証されているとは言えない」として、保護責任者遺棄致死罪の成立を認めなかった。

 「素人だから、ある程度からは深く考えることはできない。聞いたことで判断するしかない」。判決後、男性裁判員の一人はこう漏らした。

◆追及に「今回はすべて話します」

 専門家の意見に加え、結論を分けたとみられるもう一つの要素は、押尾被告の「うそ」だった。

 「田中さんを助けられず、悔やんでいます。ただ、私は見殺しにしていません」

 今月13日の被告人質問。押尾被告は身ぶり手ぶりを加えて事件前後の状況を裁判員らに必死に訴えた。

 「当日、田中さんから『新作の上物を持っていく』という電話があった」

 「『早く私のペースに追いついて』といわれ、錠剤を飲んだ」

 女性のような高い声を出し、田中さんとのやり取りを再現する場面もあった。

 これに対し、検察側が鋭く追及したのは、昨年10月に東京地裁で行われた前回裁判での供述との“ズレ”だ。押尾被告は、田中さんが死亡した昨年8月2日にMDMAを使用したとして麻薬取締法違反罪で懲役1年6月、執行猶予5年の有罪判決が確定している。

 まず、説明が食い違っているのは、違法薬物の使用経験についてだ。

 押尾被告は前回裁判の被告人質問で、田中さんが死亡した昨年8月2日以前にMDMAを使ったことがあるのは3回で、いずれも場所はアメリカだったと説明。その上で「今回以外に、日本でMDMAを使ったことはない。田中さんと一緒に使ったのは今回が初めて」と語っていた。

 しかし、今月の裁判では、「田中さんとは平成20年に知り合い、2回目に肉体関係を持ってから薬を使うようになった。肉体関係は5回ぐらいあった」と、前回裁判の説明を翻した。

 田中さんと事件当日に会った目的についても、前回裁判では、「会った理由は、何をするためというのではない」として、性行為目的だったとする検察側の筋書きを否定。これに対し、今回の裁判では「会ったら性行為をするつもりだった」と一転して性行為が目的だったことを前面に打ち出した。

 押尾被告は被告人質問でこうしたズレを検察側に指摘されると、「前回は(違法薬物使用を)隠したいということしか頭になかった」と、うそをついていたことを自ら認めた。一方で、「今回は何も隠さず、すべて話しています」と、真摯(しんし)に公判に取り組む姿勢も強調した。

 ただ、山口裁判長に「前回と今回では何が違うのか」「前回はうそをついたということか」と問われると、「やはり、うそは良くないと思ったので…」と答えるにとどまった。

◆うそ認める効果は… 「不自然な印象与える」「情状訴えるチャンス」

 被告が法廷で、別の裁判での「うそ」を認めた場合、裁判員はどのような印象を受けるのだろうか。

 薬物問題に詳しい小森栄弁護士(東京弁護士会)は「押尾被告がうそを認めたことで、裁判員が『この人は女性の死亡の経緯についてもうそをついているんじゃないか』という印象を持った可能性もある。裁判への“慣れ”がないだけに、裁判員の方がそうした不自然さに敏感に反応するのではないか」と分析する。

 一方、傷害致死事件などの裁判員裁判を担当した経験のある藤田充宏弁護士(第2東京弁護士会)は、「裁判員は裁判官に比べ、法廷での被告の供述態度を重視する傾向にある。被告が真摯に反省している様子を法廷で示すことができれば、弁護側にとっては情状面で訴えるチャンスにもなる」と話す。

 押尾被告側は控訴審でも引き続き、1審と同様の主張を展開する方針という。1審で下された裁判員の判断が、プロの裁判官だけで審理される2審でどのように反映されるかにも注目が集まる。

⇒押尾学 楽曲作りの日々 墓参は遺族拒否