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第3回公判(2010.11.29)

 

(3)事件悔やむ一方で「殺さなければ伝わらないと思った」

現場

 殺人罪に問われた中央大学卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の大学生活について、男性検察官が尋ねていく。山本被告は大学5年で、刺殺した中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=の研究室に入るが、年度の後半から研究室に行かなくなったという。

検察官「なぜ研究室に行かなくなったのですか」

山本被告「研究室の院生や学生、教授から不審な目で見られると感じたからです」

 検察側の冒頭陳述などによると、山本被告は大学入学後、人間関係で孤立したことなどから、顔や腕を刃物で傷つける自傷行為を始めるようになる。研究室に入った後も、自傷行為の跡があることを高窪教授らに不審な目で見られているのではないかと感じるようになり、事務室の職員に「不審な目で見ないでほしいと高窪教授に伝えてほしい」と依頼したこともあったという。

検察官「不審な目で見られると、どうして研究室に行かなくなるのですか」

 検察官の問いに、山本被告は数秒間沈黙した後、「行きづらかったです」とだけ答えた。

検察官「研究室へ行かないことについて、高窪教授に何かいわれたことはありますか」

山本被告「特になかったと思います」

検察官「学生時代、高窪教授から厳しく怒られたことはありますか」

山本被告「ありませんでした」

検察官「高窪教授は、他の学生を叱責(しっせき)することはありましたか」

山本被告「ありました。発表の際、専門用語の使い方を間違っている場合などに、叱責したことはあると思います。たとえば、『その言葉遣いは間違っていますね』といった感じに」

検察官「あなたの卒業論文のテーマは何でしたか」

山本被告「消費電力を低く抑える、低消費電力に関するテーマでした」

検察官「そのテーマはあなたが一人で考えたのですか」

山本被告「院生に相談しました」

検察官「高窪教授からもアドバイスを受けたのではないですか」

山本被告「アドバイスはありました」

検察官「どのようなアドバイスでしたか」

山本被告「はっきりとは覚えていません」

検察官「あなたは研究室にほとんど顔を出さず、ゼミ合宿にも行かなかったといいます。そういう学生は普通、卒業させてもらえるのですか」

山本被告「後半から研究室に行くことは少なくなりましたが、それまで(の出席)を評価してもらえたのと、卒業論文をしっかりと書いたので、そこを評価してもらえたのではないでしょうか」

 山本被告は、顔を検察官の方に向けながら、淡々と答えていく。

検察官「高窪教授があなたの卒業のために骨を折ってくれたという思いはありますか」

山本被告「卒業論文の提出の1カ月前に自宅に電話があり、『卒業論文はちゃんと出した方がいいよ』といわれました。卒業論文を出さずにもう一年留年しようと思っていましたが、出すことにしました」

検察官「留年するつもりだったのですか」

 男性検察官が、意外な様子で問い直した。

山本被告「留年して、別の研究室に入ろうと思っていました」

検察官「なぜその考えを変えたのですか」

山本被告「高窪教授のアドバイスを受け入れた方がいいと思ったからです」

検察官「自分が卒業できたのは、高窪教授の力添えがあったから、という意識はありますか」

山本被告「持っています」

検察官「卒業後も、感謝の気持ちは持っていましたか」

山本被告「持っていました」

 さらに、検察官は卒業後の高窪教授とのやり取りについても質問した。山本被告は卒業後に2回、研究室に高窪教授を訪ねている。

検察官「前回の被告人質問で、弁護人の質問に、高窪教授に会いに行った理由について『食中毒の件と盗聴器のことを聞きに行こうとした』と話していましたね?」

山本被告「はい」

 山本被告は卒業前に開かれた研究室の「お別れ会」で食中毒となり、翌日の記念写真撮影に参加することができなかった。このことで「研究室全体に陥れられたのではないか」という不信感を抱き、自宅に盗聴器が仕掛けられているのではないかと疑うようになったという。

検察官「取り調べをした検事には『就職がうまくいかないことについて、相談に行った』と話していませんか」

山本被告「あ、はい。それと、食中毒の件と盗聴器の件を聞きたかったんです」

検察官「このとき、高窪教授を信頼する気持ちと疑う気持ち、両方があったということですか」

山本被告「はい」

検察官「結局、2回とも食中毒や盗聴のことを聞けなかったのはなぜですか」

山本被告「質問するのが怖かったからです」

検察官「どういうことですか」

山本被告「質問したら、かえって不審に思われるのではないかと思い、聞けませんでした」

検察官「高窪教授が圧力団体の中心人物であるという確信は、このときは持っていなかったのですか」

山本被告「はい」

検察官「このとき思い切って聞いておけば、良かったのでは?」

山本被告「そう思います」

検察官「このとき疑問が解けていれば、今回の事件は起こらなかったかもしれませんよ」

 山本被告は「はい」と小さく答えた。

検察官「1回目に訪ねたときは、高窪教授に履歴書の書き方を教えてもらったんですね?」

山本被告「はい」

検察官「これはあなたが聞いたのですか」

山本被告「私から具体的にどういうことを教えてほしい、とはいいませんでしたが、高窪教授が具体的にアドバイスしてくれました」

検察官「教授に感謝しましたか」

山本被告「感謝しました」

検察官「2回とも、アポイントメントは取ってから訪ねたのですか」

山本被告「アポイントメントは取らなかったです」

検察官「高窪教授は、嫌な顔をしませんでしたか」

山本被告「しませんでした」

検察官「学生時代に、高窪教授に迷惑をかけたという気持ちはありますか」

山本被告「あります」

検察官「卒業後も感謝する気持ちはありましたか」

山本被告「あります」

 「嫌がらせのこと、(犯行よりも)事前に確かめることはできなかったの?」と検察官がたたみかけると、山本被告は「あいさつしたときにちゃんと確かめておけばよかったと思います」と淡々と答えた。

検察官「あなたは、いくつかの会社を能力不足という理由で解雇されていますが、その理由には納得していましたか」

山本被告「納得していました」

検察官「能力不足という以外に原因があると考えたことはありますか」

山本被告「あります」

検察官「どんなこと?」

山本被告「自分に嫌がらせをする団体が、会社に話をしてやめさせようとしているんじゃないかと思っていました」

検察官「どちらが大きいと思っていましたか」

山本被告「両方とも同じくらい。50%、50%ぐらいだったと思います」

検察官「周囲の人があなたに向かって『ありえない』といったり、付近の家のシャッターが不審に閉まっていても、あなたの身に何かが起きているわけではないですよね。それなのに、なぜ高窪教授を殺したのですか」

 山本被告は事件前に、路上や電車内で見知らぬ人から「教授がいじめるなんてありえない」などと話しかけられたり、自宅近くの家のシャッターが長時間閉まっているなど、自分への「嫌がらせ」が続いていたと説明していた。

山本被告「不審に思っていた出来事が、高窪研究室に入ってから始まったので、高窪教授が何かしていたんじゃないかと思い、高窪教授を殺害する方向に向かっていったんだと思います」

検察官「どうして、殺人という大それたことまでやっちゃったの?」

山本被告「殺すということまで、命を奪うということまでしなければ、迷惑しているという気持ちが伝わらないんじゃないかと思いました」

検察官「でも、死んじゃった相手には気持ちは伝わらないのでは?」

山本被告「高窪教授以外にも嫌がらせをしている人がいると思っていたので、そういう人たちに『ありえない』といったり、シャッターを閉めたりするのをやめてほしいと思いました」

 また、検察官は捜査段階の供述調書の内容についても質問した。山本被告は取り調べの検事に、動機について「幕末に武士が誰かに嫌がらせを受けたとしたら、武士として(殺害を)やったと思います。武士としてのメンツを守るためというか、人間の誇りを守るためというか…。こんなに嫌がらせを受け、追いつめられたから、何もしないわけにはいきませんでした」と話したという。

検察官「こういう江戸時代の武士の話には興味があるのですか」

山本被告「歴史や日本史が好きで、そういった小説を読むのが好きだったので、そういう気持ちを持っていたのだと思います」

検察官「高窪教授を殺害するにあたって、こういう考え方が背景にあったということですか」

山本被告「はい」

⇒(4)「高窪教授が団体の首謀者」と思いつつも「どこかで尊敬していた」被告