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(6)「口、鼻、耳から血が流れ…」再現される事件現場の惨状

約2時間の休廷が終わり、村山浩昭裁判長は午後の公判の開廷を告げた。最初は、ほかの被害者を救助している途中に加藤智大(ともひろ)被告(27)に刺され、全治約6カ月の重傷を負った元タクシー運転手の△△さん(法廷では実名)の供述調書を検察官が読み上げる。

検察官「(事件当日の)午前10時に私は会社に出勤し、午前11時前にタクシーで会社から出ました。何人か客を乗せ、最後の人を秋葉原で降ろした後、日比谷方面に向かおうと神田明神通りを神田明神方向に向かい、中央通りとの交差点で赤信号のため停止しました」

検察官は△△さんが事件現場交差点に向かった経緯を説明した。この後、△△さんは加藤被告に刺されるが、この部分の供述調書は弁護側が、証拠採用に同意しなかったため、法廷では読み上げられない。検察官は、刺された直後の部分から、読み上げを再開する。

検察官「私は『A3』のあたりで倒れていました」

調書の途中がないため、「A3」が何を意味するかははっきりしない。地下鉄駅の出入り口の名前だろうか。△△さんの調書の読み上げが続く。

検察官「このまま血が流れ続けると死ぬと思い、左手で傷口の部分を押さえていました。救急車がくるまで20〜30分くらい路上に倒れていたと思います。長く感じました」

その後、加藤被告に対する被害感情の部分が読み上げられる。

検察官「私は交通事故にあった人たち(事件の被害者)を助けに行っただけなのに、まさかこんな目に遭うとは思いませんでした。事故の救護に向かった人を両刃のナイフで切りつけるなんてひどいと思います」

「私は搬送先の病院で3日間意識がありませんでした。医者からは『よくがんばりましたね』と言われました。死んでもおかしくない傷を負わされたので、被告には厳しい処罰を望んでいます。何の関係もない人を切りつけるなんて卑怯(ひきょう)としか思えません。(犯行動機の1つとして)『誰も相手にしてくれなかった』と言いますが、そんなのは甘えだと思います。7人が死んで多くの人がけがをしているのだから死刑を望むしかないです」

厳しい処罰感情をあらわにした。ここで、調書の読み上げは終わり、△△さん本人が出廷した。検察側による証人尋問が始まる。セーターにベージュのズボン姿の△△さんは、しっかりとした足取りで証言台に向かった。加藤被告はうつむいたままで目を合わそうとはしない。

大型モニターには現場交差点の地図が示された。最初、△△さんは検察官が読み上げた調書で話したとおり、自らの口で現場交差点に到着した経緯を説明した。続いて、調書では読み上げられなかった部分について、尋問が進む。

検察官「交差点で車を停車した後はどういう行動を取りましたか」

証人「停止して(客を探そうと)周りをきょろきょろしていたら、『ドーン』という音が聞こえ、『キャー』という叫び声が前方から聞こえました。そちらの方を向いたら(加藤被告の運転していた)トラックが見えました」

検察官「それからトラックはどのような動きでしたか」

証人「私の方に向かって直進してきました」

検察官「トラックはブレーキをかけている様子はありましたか」

証人「そうは見えませんでした」

△△さんは検察官に促され、トラックの走行した道筋を矢印で地図に書き込んだ。それが法廷内の大型モニターに映し出され、前方からやや斜行しながら、△△さんの乗っていたタクシーの方に向かってきたトラックの道筋がはっきり分かる。

検察官「騒ぎを見て何が起こったと思いましたか」

証人「単に交通事故が起こったのだと思いました」

検察官「トラックにはねられた人はいましたか」

証人「私から見て右前方の方向に2人いました」

検察官「2人はどういう状態でしたか」

証人「倒れて寝っ転がっている状態でした」

△△さんは、はねられた2人が倒れていた場所を、「A」「B」と地図へ書き込んだ。いずれも現場交差点内だ。

検察官「トラックが走り去った後、あなたはどうしましたか」

証人「私は救急救命の講習を受けたことがあったので、救助をしようとAさんのところへ行きました」

検察官「Aさんの様子はどういう感じでしたか」

証人「顔がぱんぱんに腫れていて、年齢が分からないほどでした。口、鼻、耳から血が流れていて、何か液体のような物も出ていました」

事件当時の生々しい被害の様子が説明され、傍聴人は息をのむ。

検察官「Aさんを見てどのように判断しましたか」

証人「私の持っている知識と技術では処置できないと思いました」

検察官「それを見てどう考えましたか」

証人「下手に私が手を出すより、ほかに私が何とかできる被害者がいないかと思って、Bさんの方に向かいました」

検察官「Aさんのところにはほかに誰かきていましたか」

証人「先に女性がきていて『大丈夫』と声をかけていました」

検察官「女性とは何か話しましたか」

証人「『(Aさんを)救命するのは無理だ。何とかできる人のところに行こう』と話しました」

△△さんはしっかりとした口調で当時の様子を語り、質問は自身が被害に遭った状況に移る。加藤被告は相変わらず身動き一つしない。

⇒(7)「激痛が走り、のたうち回った」凄惨な証言に静まりかえる法廷