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(10)「頭を動かさない方がいい!」警察官に言われた被害者は…

休廷をはさみ、審理が再開された。伏し目がちに入廷してきた加藤智大(ともひろ)被告(27)は、傍聴人席にぎこちなく一礼し、被告席についた。

村山浩昭裁判長に促され、この日4人目となる証人が入廷した。事件で重傷を負い、腎臓を摘出した被害者の女性Gさんだ。法廷は遮蔽(しゃへい)措置が施されており、その様子はうかがえない。

裁判長「では証人、場合によってはGさんとお呼びするかもしれませんので。まずは、宣誓をしていただきます」

証人「はい。宣誓、良心に従って真実を述べ…」

法廷に、若い女性の声が響いた。検察側の冒頭陳述によると、この女性、Gさんは加藤被告に腹を刺され、全治3カ月の重傷を負っている。

宣誓が終わると、村山裁判長に促され、検察官が質問を始めた。傍聴席から見える大型モニターには、現場の交差点の地図が映し出される。

検察官「あなたは平成20年6月8日の午後0時30分過ぎごろ、ソフマップ秋葉原店前で、見知らぬ男に刃物で刺され、殺されそうになりましたね」

証人「はい」

検察官「まず、被害に遭う前の行動について、教えてください」

証人「テニスに行く前に、友人と買い物をしようとして、この地図にあるソフマップ秋葉原店というところにいました」

検察官「その後はどうしましたか」

ここからの経緯は、弁護人が証拠不同意にしたため、供述調書でも読み上げられていない。まず、加藤被告のトラックが、交差点に突っ込むシーンが再現される。

証人「ビルから出てきて、この地図の真ん中の交差点…神田明神通りを横断して、南の方に向かいました」

検察官「その後はどうですか」

証人「交差点の中から、ガシャーンという音がしました」

検察官「音はどのくらいの大きさでしたか」

証人「大きな音だったと記憶しています」

検察官「その音を聞いて、何だと感じましたか」

証人「何かがぶつかるような、交通事故が起こったのではないかと思いました」

証人は、はっきりした口調で質問に答えていく。

検察官「音が聞こえた後、どうしましたか」

証人「聞いた瞬間に、交差点を振り返りました」

検察官「交差点内は、どんな光景でしたか」

証人「何か遮蔽物がありましたが、迂回(うかい)して中の方にいきました。中の様子が分かったと同時に、男の人がごろごろ転がってきました」

検察官「その人は、この図面では、どこからどこへ転がっていったのですか」

証人「交差点の真ん中から、やや東側の方に転がっていきました」

検察官「その人は、どのあたりに倒れましたか」

証人「はっきり覚えていませんが、交差点の真ん中付近でした」

検察官「男性でしたか、女性でしたか」

証人「男性でした」

検察官「年齢は」

証人「20代くらいだったと思います」

検察官「どういう形で倒れていましたか」

証人「最初に見たときは、まだ転がっている状態でした。そのあと、あおむけになって止まりました。頭が北、足が南向きでした。手足がおかしい感じで、曲がっていました」

ごろごろ転がったのは事件の被害者の1人と思われる。加藤被告は、うなだれて証言に聞き入っている。

検察官「他に気づいたことは」

証人「髪は黒くて短めで、眼鏡はかけていませんでした。黒っぽい服を着ていて、ジーンズのようなものをはいていました」

検察官「血は出ていましたか」

証人「最初は、血は出ていませんでしたが、転がる様子が止まった次の瞬間から、頭の後ろの方から、血がどんどん流れてきました」

検察官「どうしようと思いましたか」

証人「救助に行こうと思いましたが、意識もなく、頭を強く打っていることが分かったので、頭を動かさない方がいいと思いました」

検察官「『動かさない方がいい』と話している人は、他にいましたか」

証人「はい。警察官の方が近くにいて、その人も『頭を打っている人は動かさない方がいい』と言っていました」

検察官「交差点に入っていったとき、その男性の他に、誰か倒れていましたか」

証人「その男の人を含め、3人か4人くらいと記憶しています」

検察官に促され、Gさんは手元の地図に、倒れていた人々の位置関係を記していく。大型モニターに赤ペンを持った手が現れ、交差点内に、3つの丸印を書き入れる様子が見えた。

⇒(11)「たまたま死ななかっただけ」腎臓摘出した被害者の女性