Free Space

(3)「頭にべっとりと血だまりが」被害者の調書が事件を再現

事件で亡くなった川口隆裕さん、Aさんらと行動をともにしていた際、加藤智大(ともひろ)被告(27)のトラックにはねられた男性被害者Bさんの供述調書の読み上げは、被害に遭う直前の状況で一度、途切れた。弁護側が証拠採用に同意しなかった事件の核心部分は読み上げられず、検察官は、トラックにはねられ、刃物を持った加藤被告が現れた直後の部分から読み上げを再開した。加藤被告はうつむき加減で身じろぎもしない。

検察官「それで私は刃物を持っている男がいなくなったと思い、川口君とA君を探し始めました。川口君の周りには人が何人かいて、心臓マッサージをしていました」

「川口君の頭の辺りはべっとりとした血が血だまりになっていて、目は瞳孔が開いた感じになっていました。素人目にも、とても危ない状態と思いました」

「さっきまで一緒に話しをしていたのに、まるで悪い夢を見ているみたいで現実と思えず、どうしてよいか分かりませんでしたが、とにかく『川口、川口』と叫びました。C君も同じように川口君の名を呼んでいました。でも反応はありませんでした」

「その後A君を見つけ、周りの4〜5人の人とA君をあおむけにし、その場にいた人がA君に心臓マッサージを始めました。A君は川口君と同じように口から血が流れ、着ていた服は、はだけていました。さっきまで話していたA君がこんな状態になっていることが信じられませんでした」

「A君は目を閉じていたので(瞳孔が開いていた)川口君より良い状態なのではと思いました。助かってほしいと思いながらA君の名前を呼びました」

「川口君とA君の間を行ったり来たりしました。川口君の生気のない目が私を見つめているように感じました。『助かるのでは』と思い、助かるように祈っていました」

その後、けがをしていたBさんはAさんとともに病院に搬送され、手当を受けた。その病院でAさんの容体がBさんに告げられた。

検察官「A君について『非常に厳しい』と伝えられました。私はとっさに逃げることができましたが、逃げられなければ殺されたはずです」

「その後、私は川口君とA君の通夜や告別式に参列し、それぞれ弔辞を読ませていただきました。まだ2人が亡くなったことが信じられない気持ちです」

「事件後にカラオケに行ったとき、川口君がその場にいないことに気付き、亡くなってしまったんだと思いました。それでもまだ信じられない気持ちです」

「大学の食堂では今もA君がいつものようにニンテンドーのゲーム機DSを持って現れるのではないか、と思います」

「川口君とA君と会い、他愛もない話しをしたいです。2人が続きを楽しみにしていたマンガや映画を見せてあげたいです。2人はまだ若くやりたいことがたくさんあったはずです。犯人には当然極刑を望みます」

「犯人は人生に絶望していたという報道がありましたが、『どうして川口君やA君を巻き込んだのか』『どうして1人で死ななかったのか』と言ってやりたいです」

友人を突然失った悲しみが切々とつづられた調書。続いて、Bさんの証人尋問に移る。加藤被告から証人を遮る遮蔽(しゃへい)用のついたてが置かれた。ついたての向こう側でBさんが席に着く気配がした。宣誓の後、検察側の尋問が始まった。

検察官「平成20年6月8日午後0時30分ごろ、ソフマップ前の交差点で、あなたは信号を無視して突っ込んできたトラックにはねられ、けがを負いましたね」

証人「はい」

大型モニターに現場交差点の地図が映し出される。検察官が、被害に遭ったときのBさんらの位置関係を確認すると、Bさんがゆっくり説明する。

証人「私の左隣にCさん、後ろに川口君とA君がいました」

検察官「前の2人と後ろの2人はどのくらい離れていましたか」

証人「1メートルも離れていなかったと思います」

検察官「横断歩道を横断中に何か起きましたか」

証人「私たちの進行方向にいる人たちがにわかに騒ぎ出して様子がおかしく、右手方向を見たら、トラックが突っ込んでくるのが見えました」

検察官「あなた方は、まだ横断歩道を渡りきっていませんでしたか」

証人「はい」

この後、検察官は突っ込んできたトラックの様子を詳細に尋ねていく。加藤被告は時折、手で首筋に触れるなどするが、あまり動かない。

⇒(4)迫るトラック、友人が背中を押し「自分を救ってくれたと思う」