Free Space

(4)迫るトラック、友人が背中を押し「自分を救ってくれたと思う」

秋葉原を訪れた際、加藤智大(ともひろ)被告(27)の運転するトラックにはねられた男性被害者Bさんへの証人尋問が続く。一緒にトラックにはねられた友人、川口隆裕さん=当時(19)=とAさんは後に死亡した。声を落として、はねられる直前から直後の状況を振り返るBさん。供述調書では、弁護側の不同意で読み上げられなかった部分を淡々と話していく。一方、加藤被告は硬い表情でうつむき、証言に耳を傾けていた。

検察官「トラックはどんな音を出していましたか」

証人「カーブを速度を落とさずに曲がるような『キュルルルル』という音が聞こえました」

検察官「どのくらい速度が出ていたように見えましたか」

証人「50〜60キロほどだったように思います」

検察官「ブレーキをかける様子はありましたか」

証人「ありませんでした」

検察官「そのとき、あなた方とトラックとの距離はどの程度でしたか」

証人「5〜6メートルほどだったと思います。そのとき、Aさんか川口さんか分かりませんが、後ろにいた人が自分の背中を押しました。左肩の少し下だったと思います」

検察官「今、考えてみて、なぜ背中を押されたと思いますか」

証人「自分を助けてくれたような気がします…」

検察官「危険を知らせてくれたと」

証人「はい」

Bさんは淡々とした声で当時を振り返る。検察官は証言台のBさんの手元にある事件現場の地図に、トラックや歩いていた位置を書き入れるように促した。Bさんが赤いペンで印を付けると、法廷の大型モニターの地図にも映し出される。

検察官「トラックが近づいてきて、どうなりましたか」

証人「よけきれず右の腰のあたりに衝突しました」

検察官「衝突の瞬間、何かを感じましたか」

証人「殴られたような衝撃を腰のあたりに感じました。気付いたら交差点に倒れていました」

検察官「横断歩道上で、進行方向の秋葉原寄りに倒れていたと」

証人「はい」

検察官「その後、どういう行動をとりましたか」

証人「交差点を渡りきって歩道まで歩くと、知らない人が声をかけてくれました。Cさんも交差点からやってきて、同じように声をかけてくれました」

検察官「Cさんは何と声をかけてくれましたか」

証人「『大丈夫か?』と声をかけてくれました」

検察官「その後は」

証人「Cさんに『Aさんと川口君を探しに行こう』と言われましたが、自分は腰を打って歩けそうになかったので、Cさんに先に行ってもらいました」

検察官「満足に歩ける状況ではなかったと」

証人「はい」

検察官「交差点はどういう状況でしたか」

証人「かなりの人が集まってきていて、人だかりができていました」

加藤被告の表情に変化はない。背中を丸め、うつむいたままで証言に耳を傾けている。

検察官「その後、何か変わったことは」

証人「人だかりの方向から『刃物を持った男がいるから逃げろ』と声が聞こえて、皆一斉に逃げ出しました。人だかりがなくなり、安全が確保されたと思い、Cさんと合流して川口君とAさんを探しに行きました。人が遠くに、蜘蛛(くも)の子を散らすように必死に逃げていくのがみえました」

検察官「川口さんとAさんはみつかりましたか」

証人「はい」

検察官「川口さんの様子は」

証人「あおむけに倒れていました。瞳孔が開き、素人目に見ても危険な状態に感じました。あたりには血だまりができていました」

検察官「Aさんはどういう状態でしたか」

証人「うつぶせに倒れていました。救助に駆けつけてくれた人と一緒に、Aさんをあおむけにしました。川口君と同じように、(周辺に)血だまりができていました。Aさんは口から血を吐いて、かなり深刻な状況だと思いました」

検察官「川口さん、Aさん以外に倒れている人はいましたか」

証人「3人ほど倒れていました」

検察官は、倒れていた被害者の位置を図面上に記すように促した。

検察官「あなたが記憶しているだけで川口さん、Aさんを含め5人倒れていたということですね」

証人「はい」

検察官「その後、どのような行動をとりましたか」

証人「川口さんとAさんの間を行き来して、名前を呼んだりしました」

検察官「必死に声をかけて励ましていたと?。どのようなお気持ちでしたか」

証人「まだ自分の身に降りかかったことが信じられない。現実味を感じることができませんでした」

検察官「救急車が到着するまで、記憶していることはありますか」

証人「周囲の方が何人も駆け寄って、助けてくれました。川口君やAさん、周りに倒れていた人に応急処置をしていました」

「川口さんに心臓マッサージをしている人がいましたが、他の方が『肋骨(ろっこつ)が折れている可能性がある』と言って、AEDを持ってきてくれました」

検察官「Bさんも、最初は腰を打って歩けなかったのですよね」

証人「はい。でも、そのときはもう痛みを忘れていました」

検察官「足は引きずって歩いたのですね」

証人「…はい」

検察官「Aさんと川口さんが亡くなったのはどこで知りましたか」

証人「自宅のテレビで知りました」

検察官「どう感じましたか」

証人「やはり、信じられないという思いで…。これは現実なのか、と思いました」

⇒(5)亡き親友、今でも夢に…目覚めて「もう、いねーんだな」