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(5)亡き親友、今でも夢に…目覚めて「もう、いねーんだな」

加藤智大(ともひろ)被告(27)のトラックにはねられ、けがを負った男性被害者Bさんに対する証人尋問が続いている。一緒にいてはねられた友人の川口隆裕さんとAさんは死亡したが、Bさんはそれを自宅のテレビニュースで知ったという。Bさんは検察官の質問に答え、2人の葬儀に参列した際の思いを語りはじめた。

検察官「川口さんとAさんの葬式に行きましたね」

証人「はい」

検察官「そのときの気持ちはどうでしたか」

証人「友達が亡くなったので、喪失感というか…むなしさがあふれ出てきました」

検察官「葬式で、2人の姿を見ましたか」

証人「はい」

検察官「どのような様子でしたか」

証人「川口君は、見たのは顔だけで、化粧(死に化粧)もしていたので、別人のように見えました。A君は、顔中アザだらけで…とても痛々しいと思いました」

ここで検察官はBさんに、事件当時の交差点が写った写真を示したようだ。Bさんは、検察官の指示に従って、川口さんやAさんらが倒れていた位置に丸をつけていく。傍聴席から見える大型モニターでは、その様子はうかがえない。

検察官「被害の様子を今でも思いだしますか」

証人「はい。今でも川口君やA君が夢に出てきて、危ない状態から回復して、話をするような夢を見ます」

検察官「どのように話しかけるのですか」

証人「自分の心境を…。『心底、良かったな』と、2人に話しています」

検察官「夢から覚めたとき、どのような気持ちですか」

証人「そうですね…。夢を見ているとき、すごくうれしかったのもあるし、夢から覚めて、『もう2人はいねーんだな』と思って…。悲しさというか、むなしさが、すごく出てきます」

検察官「2人の様子を思いだしますか」

証人「はい」

検察官「どういう場面ですか」

証人「事件直後に、2人が倒れているところを思いだします」

検察官「2人を失って、今どう感じていますか」

証人「やはり、喪失感…それと、憤りも感じますし…。むなしさ、悲しさが一番です」

検察官「憤りとは?」

証人「自分の日常を木っ端みじんに壊されたし、それに対する怒りです」

検察官「今でも車を見て『怖い』と感じることはありますか」

証人「近くでトラックなどが高速で走っているのを見ると、かなり怖い思いです」

検察官「友人2人の命を奪われて、今、裁判が行われています。何か思うことはありますか」

証人「被告は今、何を考えて臨んでいるのかなと思います。2人を殺されたし、何でいま、のうのうと生きているのかな、と思います」

加藤被告は、うつむいたままだが、少し身じろぎしたようだ。公判では常に猫背気味に座っている加藤被告だが、この日はいっそう背中が丸まってみえる。

検察官「どのような処罰を望みますか」

証人「死刑を望んでいますが、安易に死んで逃げる、というか、楽になるようなことでいいのかと、疑問には思います。ですが、死刑以外では、満足できないという思いです」

Bさんの厳しい処罰感情を引き出して、検察側は質問を終えた。続いては弁護側の反対尋問だ。Bさんらが、交差点で加藤被告のトラックにはねられる直前の状況から質問していく。

弁護人「信号待ちをしていたとき、先頭の人との距離はどれくらいでしたか」

証人「覚えていません」

弁護人「どのくらいの位置で信号待ちをしていましたか」

証人「自分たち以外に信号待ちをしていた人はたくさんいたので、(待っていた人の中では)先頭ではなかったと思います」

弁護人は、Bさん一行が交差点を横断した際について、細かい状況を確認していった。Bさんは記憶があいまいな部分も多いようで、「覚えていません」という答えが続く。質問は、トラックにはねられた後の状況に移る。

弁護人「気づいたらうつぶせだったそうですが、トラックがどう走っていったかは見えましたか」

証人「見えていません」

弁護人「刃物を持った男がいると(現場で)聞いたとのことですが、自分では見ましたか」

証人「見ていません」

弁護人「自分で見てはいないんですね」

証人「はい」

弁護人は、事件について語ったBさんの供述調書の信頼性を確認しているようだ。

弁護人「被告人がなぜ事件を起こしたと聞いていますか」

証人「まあ…インターネットで軽く見るぐらいのことしか知らないです」

弁護人「ご自身の供述調書で、『(被告は)人生をあきらめていたらしい』と書いてありますが、そういう認識でいいんですか」

証人「そうですね」

次に、弁護人は、加藤被告が被害者に送ったという手紙について質問していく。友人を加藤被告に殺害された証人のBさんは、言葉を探るように、感想を述べていく。

弁護人「被告人の手紙をごらんになりましたか」

証人「見ていないです」

弁護人「なぜ見ていないんですか」

証人「何を書いていても、満足というか…そういう…正の感情は…。負の感情以外はわかないから」

ここで尋問する弁護人が、別の男性弁護人に交代した。加藤被告は時折メモをとっている。

弁護人「将来も手紙を読む気はありませんか」

証人「いえ。いつか読むつもりですが、いつかは決めてはいません」

弁護人「先ほど、『死刑以外は満足しないが、死んで楽になるのは…』とおっしゃいましたが、それをもう少し説明していただけますか」

証人「もっと苦しんでじゃないが…。被告に…もっとつらい思いを…」

Bさんへの証人尋問は終了した。村山浩昭裁判長が、Bさんが検察官に従って印をつけた地図などに署名するように促した。加藤被告はその間、何かメモに書いている。

裁判長「午前中はここまでです。午後は供述調書の取り調べを行った後、証人尋問を行います」

公判は休廷した。裁判長に退廷するよう促された加藤被告は、傍聴席に向かい、一礼して退廷した。午後は1時30分から法廷が再開する予定だ。

⇒(6)「口、鼻、耳から血が流れ…」再現される事件現場の惨状