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(15)「歌織被告の過去を聞かされ、『悪いと思わない?』といわれた」

歌織被告の友人女性への弁護側の証人尋問は、歌織被告からボイスレコーダーの内容を聞かされた平成18年12月11日夜の状況について続けられた。

弁護人「あなたが、歌織被告の家に行ったことはボイスレコーダーの内容を聞きにいった日までに何回あった?」

証人「それまでに1、2回」

弁護人「でも、そのときほど遅い時間帯に歌織被告の家に行ったことはなかった?」

証人「初めてだった」

弁護人「それまで、時間が遅くなったりする場合は、別の日に約束を変えたりしたことはあった?」

証人「あった」

弁護人「でもこの日は、歌織被告が『どうしてもこの日がいい』と」

証人「はい」

弁護人「ボイスレコーダーを聞いて、祐輔さんは相手の女性に『(自分は)家事をする』といっていたというが、本当かどうか歌織被告に尋ねたか?」

証人「歌織被告は『全部うそ』と言っていた」

弁護人「他にも祐輔さんが相手に言っていたことをうそかどうか尋ねたか?」

証人「例えば祐輔さんが『子供好き』と話しているのは、『全部うそ』と言っていた」

弁護人「歌織さんの家から証人の家まで、どのくらいかかる?」

証人「電車で1時間、タクシーで40分くらい」

弁護人「あなたは翌日仕事だった?」

証人「はい」

弁護人「最初、帰宅の際の交通費は歌織被告がタクシーチケットを渡したか?」

証人「…。どうやって(どういう支払い方法で)帰るか決めるのに時間がかかった」

弁護人「結局、あなたは歌織被告から、お金を1万円渡された。そして領収書をもらってほしいと言われた?」

証人「はい」

弁護人「領収書は祐輔さんの会社の負担になる?」

証人「そう思った」

弁護人「検察の尋問では、離婚の話し合いに立ち会ってと歌織被告から直接言われていないようだが、今振り返って、(歌織被告には)立ち会ってほしいという雰囲気はあった?」

証人「今思うと、ちゃんと聞いてやればと…。可能性としてはあったと思う」

このやり取りを聞いて、歌織被告はたまらずうつむいてハンカチで顔を押さえた。

弁護人「マンションの話は、レコーダーを聞いた日に出たと確実に言える?」

証人「確実と言われると…、はっきりとは(分からない)」

弁護人「マンションの話はちょこちょこ出ていたが、どの時にどの話かと言われると自信がない?」

証人「はい」

弁護人「捜査段階では、当初(レコーダーの録音内容を聞いた)12月11日の時に、マンションの話をしたとは、言っていないようだが」

証人「その話はしていない」

弁護人「検察から『そのときにマンションの話をしたか?』としつこく聞かれたか?」

証人「聞かれた」

弁護人「検察に聞かれて思い出した?」

証人「はい」

弁護人「検察の調べで検察はあなたの話を聞いてくれたか?」

ここで検察官が、立ち上がり、弁護側の質問を遮った。

検察官「異議あり。12月11日にマンションの話をしたか否かを捜査段階で聞いたかどうかは、聞く必要はない」

裁判長「捜査段階で、この日(12月11日)にマンションについて聞かれたかどうかは、聞く必要があるのでは? 続けて」

弁護人「検察からはどのように聞かれた?」

証人「マンションの話を聞かれた」

弁護人「どういう口調で?」

証人「きつい口調で」

弁護人「検察は、この日にマンションの話が出たかどうかについてこだわっていた?」

証人「こだわっていた」

検察側は、歌織被告が12月11日にこの友人女性から『離婚してもマンションを自分のものにするのは難しい』との趣旨の発言をされたことが、犯行に至る大きな心理的要因と位置づけている。弁護側は、『その日はマンションの話は出ていない』と立証することで、検察側主張を崩そうとする作戦とみられる。

弁護人「実際、12月11日にマンションの話が出たかどうかは確実? 仮にマンションの話が出たとして、長々と話したか?」

証人「話したとしてもホンの少しだと思う」

弁護人「話題に出たとしても一言か二言ということか?」

証人「はい」

弁護人「あなたは検察調書を取られたが、内容については不満を持っているか?」

証人「はい」

弁護人「そのことを、あなたは弁護士を立てて、調べを受けた内容をその弁護士に伝えたのか?」

証人「はい」

検察側の調べに不服だった証人が、弁護士を介して抗議するつもりだったことが分かり、尋問は思わぬ展開に。検察官も顔を見合わせ、何やら小声で話し合っている。

弁護人「(書類に目を落としながら)これが、その書類です」

弁護士は証人台まで歩き、その書類を証人に確認させる。弁護人同様、女性検察官も証言台まで出てきて書類を確認する。

弁護人「検察は歌織被告について、どういうことを言っていた?」

ここでまた検察側が割って入る。

検察官「異議あり。マンションの話と被告の人物についての話は無関係」

しかし、ここでもまた裁判長は、弁護側の質問を許した。

証人「私が知らなかった歌織被告について、過去にどういうことをしたとたくさん言われ、『悪いと思わないか?』と聞かれた」

検察の調べの強引さを、証人への尋問を通じて明らかにする弁護側。歌織被告は時折うつろな目線を証人に向かって投げかけながら、やり取りに耳を傾けていた。

⇒(16)歌織被告「家を出ても私は行くところがない」