(9)娘が行方不明になっても淡々と…
弁護側の元夫に対する反対尋問が終わると、検察側は再度質問を始めた。
なぜ、仕事から帰宅後に風呂に入れなかったかについて「汚い様子ではなかったから、入れ終わっているかと思っていた」と答える元夫。さらに、「特に入れてほしいとも言われなかったし、初めて(の子供)だったので、おぼれさせるのは怖かった」などと理由を説明する。
また、彩香ちゃんを引き取ろうとしたときには、当時の妻とも相談し、同意をもらったものの、相談した弁護士から反対されたために断念したとする経緯もあわせて答えた。
最後に、裁判官から、自分名義の借金がどれくらいあったか知っていたのかなどを聞かれ、午後4時13分、元夫は法廷を後にした。元彼とは違い、目を合わさず退廷する元夫に視線をあわせようとすることがないまま、鈴香被告は正面を見据え続けた。
この日最後となる4人目の証人は、彩香ちゃんが行方不明になったとき、最初に鈴香被告の自宅に臨場した県警能代署地域課機動警ら係の巡査長だった。
これまでよく知った証人ばかりが続いていたが、一瞬目の前に立った証人が誰だか分からなかったのか、なぜか上から下まで証人を眺め始める鈴香被告。
検察側は、彩香ちゃんが行方不明になった平成18年4月9日の証人の行動について問い始める。
証人によると、最初に能代署から連絡をもらったのは、同日午後8時ごろ。藤里町の町営団地で、女の子がいなくなったと聞かされ、パトカーで鈴香被告宅に向かったという。到着は午後8時25分ごろだった。
検察官「そのときの様子は」
証人「多くの人たちが懐中電灯で探していた」
検察官「何をしたのか」
証人「家族と接触して子供の行きそうなところを聞いた」
検察官「鈴香被告とはすぐに接触できたのか」
証人「まもなく接触できた」
証人は、ここで鈴香被告の様子に違和感を覚えたという。
証人「鈴香被告には『どこさか、(彩香ちゃんが)行きそうなところはありますか』と聞いた」
検察官「鈴香被告はなんと答えたのか」
証人「『彩香は、河原さで遊ぶのが好きだったんで、河原にいったんでねえべか』と答えていた」
検察官「そのときの様子は」
証人「淡々としていた。普通、子供がいなくなったりした親は、早く探してくれ、という態度になるが、そうは見えなかった。雪解け水で水が冷たいので、そうなのかなとは思ったけど、探さなければと思った」
しかし、その後、証人は河原を探すことはなかったようだ。
検察官「それでどうしたのか」
証人「(鈴香被告と話をするのと)ほぼ同時に能代署から連絡が入った」
検察官「どんな連絡か」
証人「誘拐事件の可能性がある。制服を着ているとうまくないので、私服(の警察官)が来たら引き継いでくれと言われた」
検察官「私服はすぐ来たのか」
証人「はい」
検察官「河原に行って石ころを集めるのが好きだったという話は引き継いだのか」
証人「はい」
検察官「その後はどうしたのか」
証人「白黒のパトカーで来たので、赤色灯はつけずに(周辺を)探した」
検察官「どれくらいか」
証人「1時間か2時間ぐらいしたら、能代署から戻るように指示があった」
検察官「この後、4月10日付で捜査報告書が作成されているが」
証人「署に戻った後、(当日の)当直長に話したところ、上司から『報告書を作っておいたほうがいいだろう』と言われた。(作ったのは)日付が変わるころだった」
検察側の問いに、緊張し、うわずるような感じの大きな声で、証人は答え続けた。