(5)「母さん、やってくれないから」女性住民が彩香ちゃんの声を再現
公判は午後1時30分から再開した。
午前中と同じように、法廷内を見ながら、畠山鈴香被告(34)は軽く頭を下げて長いすに座った。
2人目の証人は、鈴香被告の自宅があった町営団地の住民の女性。
鈴香被告とはほとんど話をしたことがないものの、娘が鈴香被告の長女、彩香ちゃんの1歳年下でよく遊んでいたため、彩香ちゃんのことはよく知っているという。
まず、検察側は、鈴香被告と彩香ちゃんの関係について質問した。
証人は、夕方になると決まって車に乗って外出していたという鈴香親子の様子を話し始めた。
証人「いつも午後5時ぐらいになると、2人で車に乗っていく様子を、ほぼ毎日見た」
検察官「それは、いつごろまでか?」
証人「彩香ちゃんがいなくなる数カ月前まで」
検察官「そのときの親子の様子は?」
証人「ほとんど会話がなく、淡々としていた」
検察官「いつも出かける理由は?」
証人「近所の人から、『実家に夕飯を食べに行っている』と聞いていた」
話は、彩香ちゃんが鈴香被告から食事を作ってもらえなかった状況に移る。
証人は、午前11時ごろ、ポテトチップスとカップラーメンを買って歩いている彩香ちゃんの姿をしばしば目にし、「お昼ご飯でカップラーメンを食べるのかな」と思っていたという。
さらに、彩香ちゃんを置いて、黙って外出する鈴香被告の様子について説明を始めた。
検察官「鈴香被告が、交際相手の男性と一緒に車に乗っているところを見たことはありますか?」
証人「一昨年の夏か、秋ごろにある」
検察官「そのときの彩香ちゃんの様子は?」
証人「うちの娘と家の前で遊んでいた」
検察官「2人で外出したことを、彩香ちゃんは知っている様子だったか?」
証人「知らなかったと思う。車が戻ってきたとき、彩香ちゃんが『彩香を置いてどこへ行ってたの』と言い、(証人の)家の前を通り過ぎる車を追いかけていったから」
証人の女性は、娘から聞いたという鈴香被告と彩香ちゃんの様子を語った。
「鈴香被告の家で『名探偵コナン』のビデオを見ようとしたら、『勝手に見るなと言ったべ』と怒られた」
「彩香ちゃんが『今日のご飯はおにぎり一つ』と言っていた」
「雪遊びで濡れたジャンパーを、彩香ちゃんは一人で脱ぎ、ストーブを持ってきて、火をつけ、一人で干していた。『お母さん、やってくれないから』と言っていた」
次々と、証人の娘から見た親子関係が語られた。
そんな状況を見ていたため、証人は、彩香ちゃんが行方不明になったとき、すぐに鈴香被告を疑ったという。
検察官「彩香ちゃんがいなくなった日、どう思ったか?」
証人「近所の人たちは『母親がやったんだろう。家の中探した方が早いんじゃないか』と言っていた」
検察官「ビラ配りは、本気でやっていたと思うか?」
証人「おかしいと近所で噂になっていたし、私も事件を隠蔽しようとやっていたのではないかと思った」
10分ほどで検察側の尋問が終わると、弁護側が反対尋問。
弁護側は、具体的にどのような状態で鈴香被告と彩香ちゃんを見ていたのかや、彩香ちゃんが普段、鈴香被告に直接不平を言うようなことはあったかなどを質問した。
終盤になって、藤井俊郎裁判長が口を開いた。証人に写真を見せている。
傍聴席からは見えないが、どうやら、鈴香被告と彩香ちゃんがにこやかにほほえんでいる写真のようだ。
裁判官「その写真の印象は?」
証人「仲がよさそうに見える」
裁判官「写真の印象と、実際にみた親子関係は?」
証人「違うように見える」
裁判官「彩香ちゃんが、写真のように笑っているところを見たことがあるか?」
証人「よく覚えていない」
2人目の証人尋問は、午後2時ごろ終了。
鈴香被告は焦点の合っていなそうな目で、正面を見据え続けていた。